高校卒業せず大学へ…「飛び入学」、利用者わずか152人、なぜ日本で広がらない?
飛び入学が広まらない理由とは…?
西本さんや大原さんの話から、飛び入学生のための先進科学プログラムは、自分がやりたい勉強や研究に打ち込める非常に恵まれた環境であることが伝わります。しかし、この数年の志願者は年間20人前後(23年度は26人)で、導入当初からあまり増えていません。 その理由の一つとして考えられるのが、飛び入学制度の知名度の低さです。大原さんが千葉大学の飛び入学について知ったのは高2の秋。高校の授業でたまたま飛び入学の話が出て、初めて知ったそうです。高2の3月に受験し、合格の知らせを受けて同級生に伝えると、飛び入学の制度そのものを知らない人も多かったと言います。 「難関大学を目指す生徒が多い高校で、同級生からは『1年早く千葉大に行くより、1年かけて東大に行く方がいい』というようなことも言われました。僕自身も飛び入学について知るまでは、予備校に通って東大レベルの大学を目指していました」(大原さん) 飛び入学制度は高校を中退して大学に入学することになるので、高校教員から生徒に対して積極的に勧めにくい現状があるのかもしれません。 また、飛び入学を導入している大学自体もまだ数が少なく、導入済みの大学も10大学のうち音楽学部が5大学を占めるなど、対象学部が限られています。導入する大学が少ないことについて、千葉大学先進科学センターの石井久夫教授はこう話します。 「千葉大学の飛び入学は、一見すると加速型の教育ですが、実際の中身は飛び入学生のそれぞれやりたいことに合わせて教育を行う手厚い制度です。少人数の学生のためにそこまで環境を整えるのが難しいという大学が多いのかもしれません」 ただ、最近は動向が変わってきている兆しもあります。従来は大学に飛び入学すると高卒資格は得られませんでしたが、22年度から高校や大学で必要な単位を取得していれば、高卒資格を認める「高等学校卒業程度認定審査」という制度が始まりました。これは文部科学省が飛び入学制度の活用を促す観点から取り入れたものです。 また、最近は特別な才能を持つ子どもを対象にした「ギフテッド教育」が注目され、飛び入学もその一つと考える見方もあります。 「確かに飛び入学は、特別な才能を持つ学生の受け皿でもありますが、それだけではなく、受験勉強に時間を費やすよりも早く研究をしてみたい、一般的な受験では十分実力を発揮できないが研究への熱意があるなど、幅広い学生を受け入れる制度と捉えてもいいのではないでしょうか。実際に飛び入学生を見ていて感じるのは、勉強や研究に対してポジティブでアクティブな学生が多いということです。通常の学部の授業でもこうした飛び入学生が1人いるだけで、雰囲気が伝播して、いい影響があります」(石井教授) 飛び入学というと、保護者世代は「天才肌の研究者タイプが利用する制度」という固定観念で捉えてしまいがちですが、実際の教育現場では、個々に合わせた柔軟で効果的な教育方法が少しずつ増えてきています。「皆が同じ」という横並びから脱したように見える「飛び入学」や「早期卒業」制度ですが、選択肢の一つとして子どもと共有するようになると、案外、普及の動きが出てくるかもしれません。
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