最新技術と職人のこだわりを融合へ…正倉院もうひとつの宝物・下
正倉院宝物の模造を支えるのは職人の技ばかりではない。最先端の技術もまた、「もうひとつの宝物」を現代に生み出すために重要な役割を果たしている。
今回の正倉院展で実物と模造品がそろって展示される聖武天皇ゆかりの肘置き「紫地鳳形錦御軾(むらさきじおおとりがたにしきのおんしょく)」(高さ20センチ、長さ79センチ、幅25センチ)。直方体の形状で、表面を覆う錦には翼を広げた鳳凰(ほうおう)を 葡萄(ぶどう)唐草文で囲んだ雅(みやび)なデザインがあしらわれている。
錦は、正倉院事務所の依頼を受けた京都市の老舗織物メーカー「川島織物」(現・川島織物セルコン)によって2003年に復元されたが、目視では内部の構造がわからず、忠実に再現するのが難しいと、そこでストップしていた。
しかし、12年後、千載一遇の機会が訪れる。15年に福岡県の九州国立博物館で開かれた特別展。「紫地鳳形錦御軾」を出品することになり、奈良から長距離輸送した後、梱包(こんぽう)をほどく前に中の状態を確認するため、同館のX線CT装置で撮影した。正倉院事務所には装置がない上、宝物を外に移動させること自体ほとんどなく、初の試みだった。
内部がきれいに映っていた。その画像から、マコモとみられる植物の葉や茎を麻糸で編んだものを束ねて芯にし、クッションにしていることがわかった。
正倉院事務所は21年、家具メーカー「ミネルバ」(東京)に内部の復元を依頼した。1966年創業の同社は、イタリアなど海外の有名家具メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)のほか、皇室の馬車の椅子や国会本会議場の椅子の修復などを手がけ、椅子のクッション材作りに定評があった。
同社はCT画像をもとに、クッションの成形方法や縫い方を検討した。詳細に調べる中で、クッションの四つの長辺それぞれに斜め方向に針を入れて糸を通し、固定する「土手差し」に似た技法で縫われていることが判明した。マコモのような天然素材は、現代で使われるウレタンなどと比べてばらけやすく、4辺で固定して安定させるための工夫とみられる。