社説:働く環境と処遇 賃上げと学び支援急務
運転手不足によるバスや鉄道の廃線、減便が全国で相次ぐ。介護や保育でも人材難が受け皿の制約となっている。 残業規制の「2024年問題」で顕在化した過密労働を防ぐ働き方改革と併せ、社会を支える仕事の待遇改善と人材確保策をいかに進めるかが問われよう。 岸田文雄前政権は、デジタルや脱炭素といった成長分野への人材シフトを掲げ、総額1兆円のリスキリング(学び直し)の支援策を進めてきた。 石破茂政権はこれを引き継ぐ。「人への投資」を掲げる立憲民主党も「リスキリング」や「リカレント」(循環)を前面に打ち出している。 リスキリング推進のための企業向け助成金制度はすでに複数あるが、効果が疑わしい事業や中身の重複、形骸化が指摘されている。 従業員のリスキリングに必要な費用の一部を国が助成する「人材開発支援助成金」では、23年までの4年間で約1億円の不適切支出が判明した。 真に学び直しを必要とする労働者を支援する仕組みになっているかが重要だ。最新の分野を十分に学び、技能や知識を身につけるには、いっそうの長時間労働の是正も欠かせない。 衆院選で各党は、非正規労働者の正社員への転換や待遇の是正、就職氷河期世代の就労支援も公約に掲げる。 就労者の4割を占め、低賃金にとどまる非正規雇用の在り方自体に踏み込んでほしい。 経済界が求めている「解雇規制の見直し」や雇用の流動化ありきの労働規制の緩和では、社会の不安定を助長しかねない。 物価高が暮らしを圧迫する中、国際的に見ても大幅に見劣りする最低賃金の改善も重要な課題で、与野党は引き上げ方針を掲げている。 石破茂首相は所信表明演説で最低賃金について「20年代に1500円」の前倒しを掲げたが、自民党の政権公約には盛り込まれなかった。 介護職や保育士ら社会機能の維持に必要なエッセンシャルワーカーの処遇改善も別途必要である。 いずれも実現には過去にない取り組みが必要となる。人件費増加分の価格転嫁をこれまで以上に促すなど、中小企業への支援策も含め、各党は実現に向けて正面から具体案を議論してもらいたい。