<紫龍―愛工大名電・’24センバツ>名電、最後まで粘り 名門相手、延長で涙 /愛知
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は22日、愛知県勢の愛工大名電が1回戦で報徳学園(兵庫)と対戦した。昨春のセンバツで準優勝した近畿の名門を相手に投手戦を演じ、延長十回まで互角の展開が続いたが、最後に痛打を浴びて2―3でサヨナラ負けを喫した。敗れはしたが、全力プレーを貫いた名電ナインに、外野スタンドまで埋まった大勢の観客からは健闘をたたえる拍手が送られた。【黒詰拓也、塚本紘平】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 有名校同士の一戦に、球場には大勢の高校野球ファンが駆け付けた。愛工大名電の生徒や保護者らで埋まった一塁側アルプススタンドはスクールカラーの紫や白で染まり、一回から熱気が漂った。 先発マウンドは最速149キロの伊東尚輝(3年)。大会直前に「どんどん振ってくる相手に自信のある真っすぐで勝負したい」と話していた背番号10は、いきなり140キロ台半ばの速球を投げ込み、アルプスを沸かせた。 倉野光生監督の孫の西光志郎さん(11)は「Meiden」と記されたユニホームを着て観戦。「野球をしているおじいちゃんはかっこいい。まずは先制点を取って」とエールを送った。 試合が動いたのは六回だ。倉野監督が「キーマン」に挙げていた石見颯真(3年)が1死から左前打で出塁。2死二塁となり、続く宍戸琥一(こいち)(3年)が「粘る伊東を助けたい」と狙っていた真っすぐを中前に運び、待望の先制点を奪った。宍戸の父、篤史さん(48)は「やってくれた。まだ1点なので、もっと打ってつないでほしい」と笑顔を見せた。 しかし七回、名電は内野安打などを許し、2死三塁のピンチに。代打で送られた相手打者の打球は三塁線にふらふらと上がり、左前にポテンヒット。同点とされたスタンドからはため息が漏れたが、伊東が後続を断ち、流れを渡さなかった。 伊東の母、抄織さん(51)が「目の前の打者に集中して」と粘投を続ける息子を見守る中、試合は延長戦へ。無死一、二塁から始めるタイブレークで直前の打者が敬遠されて「燃えた」と意気込んだ石島健(3年)が、犠飛を放って1点を加えた。しかし直後の守りで、守備のミスや押し出し四球で同点とされた後、伊東が直球を中前にはじき返されてサヨナラを許し、ナインは涙をのんだ。 ◇新しい8曲で応援 ○…愛工大名電の吹奏楽部は、同校の12年ぶりのセンバツ出場に「伝統に加え新たな気持ちで大会に臨んでほしい」との願いを込め、新しい応援曲を8曲用意してスタンドを盛り上げた。観客は吹奏楽部の奏でる曲に合わせ、紫のスティックバルーンをたたいてナインを鼓舞。130人弱の部員を率いる御手洗彩乃部長は「甲子園は出ることだけで本当にすごい。選手たちには自信を持ってプレーしてほしい」とエールを送った。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇悔しくても前を向き 愛工大名電 山口泰知主将(3年) 1―1の同点で迎えた九回表2死三塁。均衡を破る一打を放とうと打席に立ち、外角低めの変化球を強振した。打球は三塁線へ。「抜けた」と思ったが、好守に阻まれて三ゴロに。ヘッドスライディングした一塁ベースから、悔しさでしばらく立ち上がることができなかった。 得点圏に走者を置いた五回も、一塁線に抜けると思った自身の打球が好捕された。要所で守備のミスが出てしまった名電に対し、相手の守りは最後まで堅かった。「守備範囲が広く、球際に強い」。試合後、緊迫した試合で相手に堅守を続けられたことが敗因だと唇をかんだ。 愛工大名電は昨夏の愛知大会で3連覇するなど、名実ともに全国有数の実力校だ。周囲の期待も大きい中で、昨夏の新チーム発足時に練習試合で負けが続いた時には「勝ち方が分からない」と思い悩んだ。合宿所でミーティングを重ねて課題は守備力だとナインと共有し、センバツ出場をつかんだが、初戦突破はならなかった。 「悔しいが、今日からまたスタート。守備の精度を上げて夏の愛知大会で4連覇する」。敗れはしたが、下は向かない。再び愛知の王者になり、甲子園に戻ってくるつもりだ。【黒詰拓也】