特定技能の対象追加で「外国人ドライバー」門戸拡大も… タクシー業界がもろ手を挙げて“喜べない”切実な背景
政府は2024年3月29日、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」等を一部変更し、いわゆる外国人労働者の受け入れ上限数を緩和することを閣議決定した。対象分野も追加した。 従来から対象となっていた「介護」「建設」「外食業」などの分野に加え、人手が不足する「自動車運送業」「林業」「鉄道」「木材産業」が新たに在留資格「特定技能」の対象となった。 労働時間に法律による上限が設定され、かねてからの人手不足が重なり、運送業界は需要に対し、供給が慢性的に不足。この状況を、「物流の2024年問題」としてタクシー・トラック業界には危機感が募っている。 自動車運送業の有効求人倍率は2.61倍(令和4年度)という高水準で、これにより5年後にはトラックドライバー19万9000人、タクシー運転手が6万7000人、バス運転手が2万2000人不足するとされている。
外国人の門戸が拡大されても、”追い風”とならないワケ
そうした中で、外国人労働者の門戸を拡大する特定技能が運送業にも開放されることは、人手不足に対する直接的な対応策といえ、業界ももろ手を挙げて歓迎していると思われた。ところが、必ずしもそうとはいえないようだ。 「他社様でも変わりはないと思いますが、弊社での採用基準がありますので、その基準に沿いながら一人ひとり面接を行い、適正があるかを慎重に判断していきます。日本語能力と運転技術、コミュニケーション能力は、国籍に関わらず命を預かるという仕事の上では特に厳しくあるべきと存じます」 特定技能の対象分野にドライバーが追加されたことへの見解として、こう明かしたのは大手タクシー会社の日の丸交通だ。同社はタクシー業界の中でも、外国人採用を積極的に行っており、反応は意外なほどクールといえる。 背景には、接客を伴うタクシードライバーとして1人前になるまでのハードルの高さも影響しているようだ。第一に高い日本語能力が求められる。サービスとしてのコミュニケーション能力に加え、安全面でも顧客への的確な声がけが事故予防に不可欠だからだ。 次に免許の壁がある。日本の交通ルールにのっとり、その上で、日本人でも合格が簡単でないといわれる二種免許試験をパスしなければならない。 さらに、ビザ取得に伴う空白期間が生じる可能性があることも採用のネックとなる。同社が補足する。 「ビザについては特定活動の受け入れを以前より弊社でも行っておりますが、人によっては申請がおりるまで3-4カ月かかる場合もあります。その間、一切の就業ができませんので、金銭的に厳しくなり、場合によっては申請することなくご辞退となってしまうことも。そういった観点でも(特定技能にドライバーが追加されたことで)間口が広がっただけで真の受け入れとは程遠いと感じております」というのが本音だ。 今回の政府の対応によって、外国人ドライバーが2万人強受け入れられるともいわれている。だが、そのほとんどがトラックドライバーに流れる見込みとされ、そうした実状も背景にはありそうだ。