特定技能の対象追加で「外国人ドライバー」門戸拡大も… タクシー業界がもろ手を挙げて“喜べない”切実な背景
外国人ドライバー活用のメリット
もちろん、外国人ドライバーを採用するメリットもある。需要増を推進するのはインバウンド客。外国人ドライバーが対応することで、より深いコミュニケーションが可能となり、サービスの質向上につながる。 「現在、利用者の7割がインバウンドのお客さまとなっております。普段からそういったお客さまと接する機会が多いので、母国のお客さまを母国語で対応することでお客さまも楽しむことができ、本人たちにもちょっとしたリフレッシュにつながっているとのことです」(同社) さらに、会社としても「普段から外国籍の仲間がいることで外国人のお客さまと関わるというハードルを低くすることができていることや、関心も強くなっています」(同社)といい、日本人ドライバーの外国人への”免疫”強化にもつながっているという。
安全面を危惧する世間の声
ドライバー不足は「物流の2024年問題」として不安ばかりがあおられ、外国人ドライバーに対しても世間では安全性を危惧する声が大きく、決して歓迎ムードとはいえない。 一足先に、ドライバー不足対策としてスタートしたライドシェアも、一般ドライバーへの安全面や責任問題が不安視され、不足解消よりも不安の方が充満している印象だ。 そうした空気を感じているのだろう。「世間の声としては(外国人ドライバーの)受け入れに関してはまだまだ厳しい状態ですし、そういった声を少しでも変えることができればよいと思っています」としたうえで、「先に申しましたように、弊社の採用条件は基本的には変わりません。ですので、一概に範囲を広げたから採用も増えるということでないというのが事実です」と同社は特定技能の範囲拡大が必ずしも追い風とはいえないことを改めて強調した。 ドライバー不足に対しては、ネット上では「働き手はいるはず。賃金をあげれば解消できる」の声も大きい。そうした対策をとらず、外国人材に救いを求める政府の姿勢が後ろ向きにみえるのか、業界や世間の反応の多くはクールかつ辛らつだ。 物流業界に詳しい弁護士の向井蘭氏は「外国人ドライバー活用はだいぶ以前から机上に上がっていましたので反対の空気があってもこの流れは必然です。自動運転も遠からず実用化されるでしょう」と展望し、早晩、資本力の有無で業界の淘汰(とうた)が加速すると予測する。 現状では外国人にとってもハードルが高く、必ずしも魅力的に感じられそうにないタクシードライバー職。まずはそうした空気を一掃するような、いまそこにある大きな需要を確実にすくい取るサイクルの確立。売り上げ増強に伴う賃金アップという好循環が生まれてくることが、業界を明るく照らす一歩となりそうだ。
弁護士JP編集部