経費増えた、手間も増えた…インボイス導入から1年、制度疑問視する声は根強く残る
消費税のインボイス(適格請求書)制度は1日、導入から1年を迎えた。鹿児島県内の登録件数は5万件を超え、税務署が開く説明会の参加者や公正取引委員会(公取委)への相談件数は減少傾向にあるなど、一定程度浸透している。問題なく運用する事業者がいる一方で、制度そのものを疑問視する声は根強く残る。 【写真】登録番号が記載された領収書=鹿児島市のバー「珈琲と洋酒 水」
インボイスは、軽減税率の適用で8%と10%の消費税率が混在する中、税額を正確に把握し適切な納税を促す狙いで2023年10月導入された。鹿児島税務署によると、導入前4万4000件の登録者は今年8月末で5万3000件。23年分の確定申告は個人事業者を中心に件数、納税額ともに増えた。 ■■■ 鹿児島個人タクシー事業協同組合は、加盟148社全てが登録した。手書きの領収書に対応できるよう、登録番号の印鑑を全員分作成、会計ソフトの更新など費用は計約200万円かかったという。鮫島和広理事長(72)は「客のことを考えると、同じタクシーなのに法人と個人で差があるのは好ましくない。経費はかかったが、今は問題なく運営できている」と話す。 「店の信用とお客さまのため。導入理由はそれだけ。できることなら廃止してほしい」。鹿児島市でバー「珈琲と洋酒 水」を経営する假屋学さん(51)は嘆く。売上高は1000万円以下で、消費税を免除される免税事業者だった。制度自体に反対していたが、領収書を求める客が1割ほどおり、泣く泣く登録し消費税込みの価格へ値上げした。
課税事業者になったことで、仕入れ方法に影響が出た。食料品とアルコールでは税率が異なるため、これまでまとめて購入していたものを税率で分けるようになり、業務の手間は増えた。「何のための制度か分からない」と懐疑的だ。 ■■■ 未登録を理由にした不当な値下げや取引停止は、下請法や独占禁止法に抵触する恐れがあり、公取委が注意喚起する。全国では導入前、仕入れ先へ発注元が一方的に取引価格の引き下げを通告したケースもあったが、公取委事務総局九州事務所への相談は現在、導入前と比べ約3割減った。 広告制作会社TAKE工房(日置市)は税理士と相談した上で登録しなかった。大きな不利益こそ感じてはいないが、発注費の値下げは数件あった。松浦寿克代表(59)は「相手が税金を負担することになるので、少額の交渉は仕方ない」と割り切る。 上山寛税理士事務所(鹿児島市)の上山寛所長(62)によると、免税事業者と取引しないよう社内周知する企業もあり、「知らないうちに選別されている可能性はある」。上山税理士は制度自体を疑問視しており、「不公平感解消のためなら任意にすべきではなかった。財源確保のためなら免税事業者を納税者にせずとも他のやり方でいい。再考してほしい」と注文した。
■インボイス 消費税が10%と8%の複数税率になっていることに対応した請求書類。下請けの業務や商品納入などを受注した事業者が、発注元の事業者に対して発行する。税率ごとに区分した消費税額などを記載する。英語のつづりは「invoice」で、日本語では「適格請求書」と呼ぶ。売上高1000万円以下で消費税を納めていない「免税事業者」が発行するには「課税事業者」に転換する必要があり、納税義務が発生する。登録は任意だが登録しない場合、取引企業が商品の仕入れ分の消費税額を差し引いて納税できず損失を受ける。
南日本新聞 | 鹿児島