宇宙から地上の新たな価値を見つけ出す。株式会社天地人 櫻庭康人さん&百束泰俊さんインタビュー
道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビューシリーズ『仕事論。』。 宇宙から地上の新たな価値を見つけ出す。株式会社天地人 櫻庭康人さん&百束泰俊さんインタビュー 今回は、衛星データを使って土地のポテンシャルを分析、評価するJAXA認定スタートアップ・株式会社天地人のCEO・櫻庭康人(さくらば やすひと)さん、CSTO(チーフサテライトテクノロジーオフィサー)・百束泰俊(ひゃくそく やすとし)さんが登場。 「地上と宇宙」「ビジネスと技術」、それぞれのスペシャリストである二人が描く、これからの宇宙ビジネスとは。
宇宙から見える「新たな土地の価値」
──まずはお二人の経歴と、出会いから「天地人」立ち上げまでの経緯をお聞かせください。 櫻庭康人さん(以下、櫻庭):私はもともと農業向けIoT(Internet of Things:さまざまなモノをインターネット接続可能にし、活用すること)の地上センサーのプロダクト開発を行なっていましたが、そのやり方ではデータが地上のピンポイントでしか取れないという課題がありました。 同時に温暖化などの気候変動が農業に及ぼす影響に危機感も感じていたのですが、そんなタイミングでJAXAに勤めていた知り合いから、内閣府が主催する「宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト」S-Booster(エス・ブースター)に出てみないか、と声をかけていただいたのが宇宙ビジネスに関わったきっかけです。 その時に「JAXAに面白いエンジニアがいるから」と紹介されたのが百束さんでした。 百束泰俊さん(以下、百束):僕はというと、JAXAで2機の人工衛星を開発。そのうち8年ほどはNASAとの共同プロジェクトで人工衛星の開発をしていました。 地球上を飛んでいる衛星はいろんなデータを拾っているのですが、僕はほぼすべての衛星データの種類を把握していたので、櫻庭さんが農業の領域で感じている課題に対して「それならこの衛星データが使えるのでは」という話ができたんです。 櫻庭:たとえば当時、土壌の水分量を測るセンサーをつくっていたのですが、気象データを利用するのは驚くほど高額なんです。ところが百束さんと話をしてみると、「安価に使える衛星データもあるし、ビッグデータを使えばもっといろんなことができる」と。まるで宝の山を掘り当てたみたいに、話が一気に盛り上がりました。 百束:話し合いを通じて、お互いに可能性を感じたので、1回目のS-Boosterに「海の上で農業を」というテーマでエントリーしたのですが、その時は残念ながら受賞を逃してしまいまして。 翌2018年に「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」というテーマでエントリーし、審査員特別賞とスポンサー賞を受賞したというのがスタートです。「宇宙なんだけど宇宙じゃない分野に飛び込む」価値観が評価されたのかもしれません。 櫻庭:そもそもS-Boosterは新たな産業を興すことを目的としているコンテスト。私たちもそれを目指して、2019年に天地人を立ち上げました。 ──まさに運命的な出会いだったわけですね。では現在の事業について教えてください。 櫻庭:天地人では、高い精度・感度で測定された地球観測衛星データを活用して「土地のポテンシャルを最大限に生かすための分析・評価」を提供しています。 主なサービスとしては「天地人コンパス」という、地球規模の課題を解決できるオンラインGIS(地理情報システム)プラットフォーム、いわばデジタル地球儀のようなものの運営です。 たとえば「気候変動に応じて新しい農作物の栽培場所を見つけたい」「広域で客観的なデータを活用して社会インフラ維持を効率化したい」などといった課題に対し、20種類以上の地理空間情報、最長10年分の衛星データ、独自のアルゴリズムで目的に応じた土地の分析ができるというもの。無料版はどなたでもお使いいただけるソリューションになっています。 有料版ではデータに基づく栽培地選定や栽培管理が可能。簡単に言うと「この作物をつくるならどこが最適か? ここの土地でつくるならどの品種が最適か?」といった問いに答えることができます。これを応用して現在、ビニールハウス内部の日照量を評価するプロジェクトや、月面でも育つアスパラガスの栽培実証を行なっていますし、すでにデータに基づいて栽培した「宇宙ビッグデータ米」も販売しています。 百束:社会インフラ維持については、「宇宙水道局」というプロジェクトもスタートしました。これは天地人コンパスを活用した「漏水リスク評価管理システム」です。 水道管は、各自治体の中で網の目のように張り巡らされていますが、国内水道管路の約 17.6.% (総延長距離13万km)が法定耐久年数を超えており、効率的な点検、維持・修繕が求められています。ここで衛星の空間的データ、時間的データが生かすことができれば、効率的な点検、維持・修繕が可能になります。 宇宙ビジネス、衛星データというと衛星画像を売ったり、画像から分析レポートを出すというビジネスモデルが多いかもしれませんが、我々は「土地を評価する」という切り口で、業務に使えるソリューションにしてお渡しするというのが特徴です。 ──お二人がこれまでに培った知見がミックスされた結果、このビジネスモデルが生まれたわけですね。 百束:そうですね、宇宙ビジネス自体は注目されているし、着手する企業やスタートアップも増えていると思いますが、天地人のデータビジネスはほかにないと思います。 理由は2つあって、1つは衛星のビッグデータ解析はあまりに膨大なので時間がかかり、サービスにしにくい側面がある、という点。 もう1つは解析データをソリューションまで落とし込むのがとても難しい。衛星を分析できる人、ITインフラを整える人、ソリューションのアプリケーションを仕上げる人などが揃わないと実現できません。 櫻庭:私はIT出身で地上のデータを扱っていたし、百束さんは宇宙のデータを扱っていた。そこが融合しているのが、天地人のユニークネスだと思います。 社会課題も解決しながら人の役にも立てるというテーマへの共感や、また宇宙のビッグデータを扱うことにおもしろさに惹かれて、いろんなバックグラウンドの人が集まってくれました。