亡くなった京アニ所属アニメーターのサイン色紙が100万円で落札 コレクターに聞く、高額に納得の理由
10月20日、Yahoo!オークションで京都アニメーションの故・池田晶子氏が描いた『響け!ユーフォニアム』のサイン色紙が100万円で落札された。池田氏は京都アニメーションが世界に知られるきっかけとなった『涼宮ハルヒの憂鬱』でキャラクターデザインを担当したアニメーターである。 【写真】宮崎駿が描いた『風の谷のナウシカ』のサイン色紙はなんと3000万円以上で落札 その集大成となる『響け!ユーフォニアム』ではキャラクターデザインと総作画監督を務め、数十人に及ぶ登場人物をデザインした。ところが、2019年に発生した京都アニメーション放火殺人事件に遭遇。44歳という若さで亡くなってしまった。 『響け!ユーフォニアム』は今年、第3期が完結したばかりで、アニメの聖地となっている京都府宇治市には世界中からファンが訪れるなど、世界的に評価が高い。「今回のオークションを競り合ったのも、中国人と推定される」と話すのは、漫画家のサイン色紙をコレクションする経営者のT氏である。 「落札者に関しては何とも言えませんが、最後まで競り合った人のIDを見ると、中国の入札代行業者と思われます。コロナ禍でNetflixなどの動画配信サイトの契約者が増加し、日本のアニメが世界的に高まった。こうした背景から、海外に日本の漫画家やイラストレーター、アニメーターの原画やサイン色紙を蒐集するコレクターが急増しているのです」 ■生成AIがアナログの価値を高めた? 漫画家やイラストレーターのサイン色紙が高騰している要因は、生成AIなどの登場も大きく影響しているという。生成AIによってイラストの価値が下がる…と思いきや、むしろ“超絶技巧”によって描かれるアナログの絵は価値が上がっており、T氏も「コレクションしている原画の価値がどんどん上がっています。正直、生成AI様様ですね」と話す。 「生成AIが登場したせいで、きれいなだけのイラストは誰でも出力できるし、量産できるようになった。そんな絵は、ネットでタダで見る分には構わないだろうけれど、お金を出してまでほしいと思わない。生成AIは一時のブームになる可能性はありますが、すぐに飽きられるでしょう。対して、一点物のアナログの絵の注目度はますます高まると思います」 池田氏のイラストの高騰は、こういった様々な条件が噛み合わさって起きていることとT氏は指摘する。また、海外のアニメファンの増加で、アニメーターの絵の評価が近年、うなぎ上りになっていることにも言及する。 「ほんの20年前までは、漫画家の絵と比べると、アニメーターの絵は評価が低かったのです。あの宮﨑駿さんの絵ですら数万円で買えたくらいですからね。原作があるテレビアニメのキャラクターデザインを務めるアニメーターの絵は、“漫画家の絵はオリジナルだが、アニメーターはその真似”というイメージが根強くあり、評価が本当に低かった。ところが、近年はその評価が一変したのです」 ■アニメブームで人気アニメーターの絵が世界的に 海外のアニメファンにとっては、漫画よりもアニメが作品の入口になっていることが多い。そのため、「アニメーターの絵の方が人気になり、コレクターの間での取引額が高くなってきている」という現象が起こったのである。T氏はこう考察する。 「アニメのセル画だって、アニメスタジオは産業廃棄物同然でゴミに捨てていたわけですし、原画なんて顧みられることもなかった。日本人が見向きもしなかったものに、外国人が価値を“発見”したことで、美術的な価値が生まれつつあるのが最近の状況です。江戸時代の浮世絵が海外で評価されたのとまったく同じですね」 アニメの世界的な人気の広がり、そしてイラストを量産できる生成AIの登場……イラストの価値もここ10年で一変しそうだ。ただ、確実に言えることは、アナログのイラストの評価は上がることはあれども、下がることは決してなさそうだということである。この先、イラストレーターを志す若者は、アナログの技術を習得することが必須になりそうだ。
元城健