SDV時代の鍵を握るのはハード・ソフトの標準化プラットフォーム…デンソーが考えるソフトウェア戦略
(写真:レスポンス)
デンソーのソフトウェア戦略に関する記者会見が7月12日に行われた。注目は、SDV時代に対する同社の戦略や考え方。自動車産業においてもソフトウェアの原価比率が製品サービスの半分を占めるようになると予測する同社が力を入れるのは、人材育成と標準化だった。 従来型ピラミッド構造からの脱却 自動車業界を取り巻くさまざまな課題には、事故や渋滞の他、環境、エネルギー問題、物流や公共交通の問題。さらにIT・AI技術の台頭によるグローバルでの経済環境の変化や新しいビジネスモデルの出現など、社会全般にかかわるようになっている。業界改革や再編は待ったなしの状態で叫ばれているのが、モビリティカンパニーやソフトウェアシフトだ。 ソフトウェアシフトやSDVというと、単に電子制御の領域が増え車両開発にかかわるプログラムコード(ソフトウェア)が膨大になることへの対応と捉えがちだが、問題の本質はここではない。ソフトウェアが増える、依存度が高まるのは結果であって、その原因は産業構造の変化にある。したがって、重要なのは新しい産業構造にどう対応していくかの戦略だ。 デンソーは社名の由来でもある電装品に強いティア1サプライヤーだ。自社で半導体生産も行いITにも近い領域でビジネスを展開してきた。AI研究も2010年代半ばから積極投資、人材採用を進めるなどしている。記者発表に登壇した同社CSwO(Chief Software Officer)林田篤氏は、従来のメーカーを頂点とする業界ピラミッド構造からの脱却が必要だという。車両単体のビジネスから都市交通や物流を含むまちづくり、モビリティサービスを見据えた市場への適応を目指す。 ソフトウェア事業は2035年に8000億円規模に といっても、単に事業を広げるのではなくシステムやコンポーネントを提供するティア1としての位置づけは変わらない。ティア0に相当する部分が自動車メーカーだけでなくモビリティカンパニーや行政などに広がるということだ。 基本戦略は自動車部品、モビリティを軸に培った技術を社会に広げ貢献するというもの。広範な産業にも対応するためデンソー独自の「ソフトウェアプラットフォーム」を構築する。文字通りこのソフトウェアプラットフォームを土台に、ソリューションビジネスやクロスドメインビジネスの拡大を目指す。また、そのために必要な人材開発にも投資する。 林田氏によれば、2030年までにソフトウェア人材の現状の1.5倍、約1万8000人規模に拡大するという。将来的には自動車ビジネスにおけるソフトウェアの原価構成比率は50%ほどになるという予測もある。デンソーは、ソフトウェアの事業規模でも2035年に8000億円(現状比4倍)を目指す。 ここまでは、デンソーに限らず数多のサプライヤーやメーカーが述べていることで目新しさはない。今回の記者発表は、戦略の大枠のうちソフトウェアシフトに関する各論部分を紹介するものだ。 究極的にはひとつの統合ECUに集約 各論で気になるのは統合ECUへの取り組みや考え方だ。統合ECUは、車両各部の制御を文字通り統合的に管理するタイプと、既存ECUをドメインまたはゾーンごとに分割し、これらを協調制御または統合制御するECUを設置するタイプの2つのアプローチがある。前者はテスラがその代表格だ。車両そのものをほぼスクラッチ開発できたテスラは、車両全体のシステム構造をモノリシックにすることができた。
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レスポンス 中尾真二