[関東]岡山の練習参加で体験した「絶対他のチームじゃやれないこと」への感謝。中央大MF家坂葉光は目指すべきゴールに向かって左サイドを駆け上がり続ける!
[10.5 関東大学L1部第16節 中央大 1-0 桐蔭横浜大 中央大学多摩キャンパスG] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 訪れたチャンスをしっかり掴み続けてきたからこそ、今がある。想像していなかったコンバートも、高いレベルを味わったプロの練習参加も、ポジティブに受け入れつつ、さまざまな経験を自分の力に変えてきた。それは今までも、これからも、ずっと変わらない。 「自分はプロに行くことが決まっているんですけど、それが自信になっているように感じますし、大学サッカーでは違いを出さないといけないなと。やっぱりこのチームでリーグ戦とインカレと優勝を狙いながらプレーしていくことで、来季のファジアーノで活躍できるかどうかが決まってくると思うので、まずはここで結果を出したいなと思います」。 タフな運動量と抜群のスピードでサイドを駆け上がっていく、中央大の攻守に欠かせない左の翼。MF家坂葉光(4年=東京ヴェルディユース出身/岡山内定)は掲げ続けている目標へと到達するため、今まで以上に成長へのアクセルを踏み込んでいく。 転機は唐突にやってきた。昨年の10月。リーグ戦のシビアな残留争いに巻き込まれていた状況を受け、チームを率いる宮沢正史監督は3-4-3へのシステム変更を決断。それまで攻撃的なポジションを担っていた家坂は、左ウイングバックへとコンバートされる。 「大学に入ってからもシャドーとかウイングとか、ユースの頃と変わらずに前目のポジションをやっていたんですけど、システムが変わってからウイングバックをやるようになって、『ここだったらプロに行けるな』という感じがあったんです」。 「たとえばウイングだと、J1には外国籍選手もいっぱいいるじゃないですか。そういう選手はクオリティが全然違うので、自分では違いを見せられないなというふうに感じていた中で、ウイングバックをやってみて『ああ、ここだな』というふうに思ったので、ポジション変更は嫌ではなかったですね。『もうここで掴むしかないな』と逆に割り切ったという感じでした」。 新たなポジションに可能性を感じた家坂は、レギュラーとしてチームの残留にきっちり貢献すると、今年3月に開催されたデンソーカップに関東選抜Bの一員として参加。ここでも優勝を支えるパフォーマンスが認められたことで、全日本大学選抜に選出され、韓国で行われた日韓定期戦にもスタメン出場。得点にも絡む活躍を披露する。 そんな“新米ウイングバック”は、一気にプロのスカウトからも人気銘柄に。いくつかのチームに練習参加した中で、とりわけ印象に残ったのはファジアーノ岡山を取り巻く環境と、そのクラブで体験した『絶対他のチームじゃやれないこと』だったという。 「岡山は街の人もみんな温かくて、街を歩いていた時に話しかけてくれたりしましたし、スタッフも選手もいい人ばかりでした。しかも試合を見に行ったんですけど、その時に勝利後のハイタッチに入れさせてもらって(笑)。絶対他のチームじゃやれないことじゃないですか。それをやらせてもらったので、『こういう感じなんだ。いいクラブだな』と思いましたし、『もう岡山全体が温かいな』みたいな感じで、本当に良い雰囲気を感じたので、それで決めましたね」。 7月12日。ファジアーノから家坂の来季加入内定が発表される。予想外のコンバートにも真摯に向き合いながら、ウイングバックというポジションを自分のものにした男は、プロサッカー選手としての未来を力強く引き寄せたのだ。 桐蔭横浜大と対峙したこの日のリーグ戦でも、その推進力は際立っていた。降り続く雨の影響もあって、人工芝に水が浮く厳しいピッチコンディションの中、機を見て左サイドを果敢にオーバーラップ。後半には一気のスプリントで相手をちぎり、正確なマイナスの折り返しで決定機を創出。ゴールにはならなかったものの、個のクオリティを発揮してみせる。 「あのチャンスは自分の持ち味である上下動のところで、相手より先手を取って前に行けたというところと、クロスの質で違いを見せられたかなと思います。ゴールにならないシーンもありますけど、続けることが大事なので、いつか点に繋がったらいいなぐらいの気持ちで、前に上がっていっていますね」。 夏は腰痛で1か月半ほど離脱していたが、リーグ再開に向けてリハビリを重ねてきたことで、コンディションも万全に近い状態。チームもFW加納大(4年=静岡学園高)の決勝ゴールで1-0と勝利し、現在は3位と好位置をキープしている中で、家坂の攻守に渡る存在感が、このグループにとって欠かせないものであることは間違いない。 ジュニアからユースまで東京ヴェルディのアカデミーで過ごした家坂にとって、世界と戦っている1歳年上の“先輩”たちの活躍は、小さくない刺激になっているという。「オリンピックも見ていましたけど、やっぱり(山本)理仁くんとジョエルくん(藤田譲瑠チマ)は違うなという感じです。ジョエルくんは今回の代表に入りましたし、自分も夢はずっと日本代表に入ることなので、憧れの存在ですね」。 「あの2人はもうユースの時からレベルが違ったので、あそこまで行くのも妥当な感じはありましたけど、身近な人があそこまで行っていますし、それこそ先輩の大橋祐紀くんみたいに28歳でも代表に入れる人もいるので、自分もコツコツと努力しながら、上を目指していきたいです」。掲げてきた大きな目標を見据えつつ、目の前の課題に1つ1つ取り組み、丁寧に成長していく準備は整っている。 残された3か月余りの大学生活をやり切った先には、Jリーガーとしての新しい人生が待っている。「まずは試合に出るということを目標にしたいですね。1年目からしっかり試合に出て、活躍して、ファジアーノ岡山の選手としてJ1でプレーできればいいなと思います」。 献身性と爆発力を兼ね備えた、中央大のタッチライン際を支配するウイングバック。家坂葉光はその場所が慣れ親しんだ多摩のグラウンドでも、来季から身を投じるシティライトスタジアムのピッチでも、自分の100パーセントを出し尽くし、目指すべきゴールに向かって軽やかに左サイドを駆け上がっていく。 (取材・文 土屋雅史)