たくさんの「マッサン」がいた ── 「大阪はなぜベンチャー人間の宝庫なのか」
苦しいときこそ「やってみなはれ」精神
大阪商工会議所が運営する大阪企業家ミュージアム(大阪市中央区本町)は、大阪を代表する105人の企業家を顕彰している。松下幸之助をはじめ、前章までに紹介した企業家たちのくわしい功績などを学ぶことができる。 105人の企業家たちの出身地は、西日本を中心に全国におよぶ。かつてベンチャー精神にあふれる人材が、大阪に集まっていた事実を物語っている。大阪のまち全体が、企業家を育成するインキュベーションの役割を担ってきた。 大阪のベンチャー気質は、近世以来の歴史に基づく3つの要因が生み出した。第1に既存の権威にとらわれない自主独立の「突破力」。江戸期から町人主体のまちだったことで、政治に依存できない分だけ、政治の制約を受けない。既存の権威や固定観念にとらわれることなく、明快に自身を信じて新規事業に挑戦していく姿勢が培われた。 第2に、すぐれたものを評価する「目利き力」。大阪は天下の台所と呼ばれた時代から、人、物、情報にあふれていた。そのため大阪人は、人物や商品の良し悪しを見究める能力を磨いてきた。「良し」と判断すると、実績のない人物や商品でも採用する度量がある。 3つ目はおもしろい発想を歓迎し、新しい試みを応援する「ゆとり創造力」。つらい仕事の中にも、楽しさや遊び心を盛り込もうとする。代表例はサントリー創業者、鳥井信治郎の「やってみなはれ」精神だ。ドラマ「マッサン」でも、鳥井をモデルとする人物が登場し、豪快が人柄が人気を博している。 筆者が同館を訪れた時、学生グループが見学に訪れていた。先達が繰り出した独創的なアイデアやたくましい行動力を、間近に感じながら盛りあがっていた。同館では企業家精神の高揚伝承のため、学生や若手社員の研修見学を積極的に受け入れている。 来年1月14日には、「ニッカウヰスキー創業者 竹鶴政孝の洋酒づくりにかけた情熱と軌跡」と題したセミナーを開催予定だという。「マッサン」ブームを契機にして、大阪ベンチャー精神の新たな開花が期待される。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)