「やりたいことがない」…そんな悩みに、偉大な哲学者・スピノザならなんと答えるか? その「意外な回答」
「自然」という考え方
人間にとって幸せとはなにか。 どうすればほんとうに充実した人生を送れるのか。 いまこの瞬間に死ぬかもしれないのに楽しくもない仕事をしているのはなぜか……。 【写真】「日本のどこがダメなのか?」に対する中国ネット民の驚きの回答 ふだんは目の前の生活や仕事に没頭している人でも、ときおりこうした「大きな問い」にぶつかることがあるかもしれません。 このような「大きな問い」について、過去に実在した哲学者たちと一緒に考えることができるのが、『哲学者と象牙の塔』という本です。 本書は、デカルトやソクラテス、荘子など古今東西の著名な哲学者の考え方を知ることができるだけでなく、主人公が彼らとともに悩む様子を見ることで、そうした考え方を自分の人生に活かすにはどうすればいいのかを学ぶことができるのです。 たとえば、「やりたいことがない」と悩む主人公(=本書では「訪問者」とされます)に教えを授けてくれるのは、17世紀のオランダで活躍した哲学者、スピノザです。 スピノザと主人公は、世界が物質でできていること、それは物理的な法則(自然法則)に支配されていること、人間の身体や行動も自然法則に支配されており、意識は行動に関与できないことなどを確認したあと以下のようなやりとりをします。 『哲学者と象牙の塔』から引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 *** 訪問者:もうひとつお聞きしてもよろしいでしょうか。 スピノザ:私に答えられることでしたら。 訪問者:自分の意志(意識)で自分の行動を決めていないのなら、なぜこの世界に意識というものが存在しているのでしょうか? 意識と行動に因果関係がないのなら、そもそも意識など存在しなくてもいいのではないでしょうか? スピノザ:この世界に、意識というものが存在する意味を知りたいのですか? 訪問者:とても知りたいです。 スピノザ:ご説明しましょう。まず、今、あなたが置かれた状況は、自然があなたのために用意した状況だと言えますね。 訪問者:はい。今までのお話からすると、私の目の前に広がっている世界は、自然法則(因果律)によってできた必然です。 スピノザ:では、自然という神は、その状況から、次にあなたにどんな行動をさせるのでしょう。それを考えることができるのは、楽しく、幸せなことですよ。人間に意識がある理由は、自然が自分にどんな役割を与えているのかを知るためだと思います。自然は、何か大切な役割を自分に与えているのか? そうでないのか? 訪問者:なるほど。でも、自然が私に、何を望んでいるかをどうすれば知ることができますか? スピノザ:あなたの身体(物質的側面)が自然の一部であるように、あなたの意識(意識的側面)もまた自然の一部です。ですから自然の考えていることは、あなたの意識の中に自然に浮かぶはずです。 訪問者:自然の考えと私の考えは同じということでしょうか? スピノザ:いかにも。自然の意識とあなたの意識は同じです。バラバラだった粒子が集まって、個人となったとき、個人は自然の意識を受け取り、与えられた役割に向かって動き出します。ですから、自分がかつて考えたことも、かつて起こした行動も、これから考えることも、これから起こす行動も、それらはすべて自然の考えであり、自然の選択です。自分の考えや行動が、すべて自然の望みであるならば、自分の考えや行動はすべて「善」ということになります。 訪問者:確かに自然が望んだのなら「悪」ではないような気がします。 スピノザ:自然がこれから自分に何を考えさせ、何を選択させ、どんな一歩を踏み出させるのか? それを知るのは自分と自然だけです。そうした行動がすべて自動的に「善」だなんて、これを自由と言わずに何を自由と言うのでしょう。 訪問者:真夜中にふと目が覚めて、ケーキが食べたくなったら、コンビニに買いに行き、やめておこうと思ったら、そのまま寝ればいいだけ。ということでしょうか? スピノザ:その通りです。あなたの願望は、すなわち自然の願望。あなたの選択は、すなわち自然の選択。あなたはただ、やりたいこと、正しいと思ったこと、ワクワクすることをやりさえすればいい。すべての人間は自然の一部、いえ自然そのものなのですから。私は、ありがちな人生訓や、怪しげな自己啓発の話をしているわけではありません。これは幾何学的な論理です。 *** 自分の意識は「自然」の一部である。しかもそれはスピリチュアルな指摘ではなく、論理的に考えた結果導き出される答えである……。意外な指摘ですが、たしかにこの考え方は、「やりたいことがない」という悩みについて再考を促してくれそうです。 【つづき】「「幸福である」とはいったいどういうことなのか? 偉大な哲学者がおしえてくれる「重要な一つの見方」 」
田中 正人