『逃げ上手の若君』アニオリ演出にみる足利尊氏の“カリスマ性” これまでの人物像に迫る
TOKYO MX・BS11ほかにて放送されている『逃げ上手の若君』。第六回「盗め綸旨、小笠原館の夜」で描かれたのは第一回から強さが未知数だった足利尊氏の“本当の実力とカリスマ性”。北条時行の最大の敵でもある尊氏の人物像をこれまでの場面から振り返ってみたい。 【写真】『逃げ上手の若君』場面写真 第六回の前半では、自在に姿を変化させ、あらゆる技で敵を翻弄する盗人・風間玄蕃と時行が、小笠原の館に忍び込み、帝の綸旨が保管されている蔵へ侵入する。玄蕃のスキルもあって、無事に潜入できたかに思われたが、貞宗の配下・市河助房の地獄耳が2人を捉えていた。玄蕃と時行は館からの脱出を試みるが、次第に助房に追い込まれてしまう。そんな時、1人で逃げようと企んだ玄蕃は時行を見捨てようとするが、助房の耳からは逃れることはできなかった。 万事休すと思われたが、そこで玄蕃を助けたのは時行。自らは背中に切り傷を追ってしまうが、2人はなんとか致命傷を避けることに成功した。普段は戦闘の才能がない時行だが、いざとなると仲間を助ける勇敢な心の持ち主。「たとえ君が絶体絶命でも、たとえ君が裏切っても、逃げる時は必ず一緒だ!」と爽やかな笑顔で話す時行の懐の深さこそが、本作の主人公たる所以なのだろう。玄蕃が忍術を使って、助房と小笠原貞宗を出し抜く戦闘シーンは前半戦の見どころだった。
視覚的に描かれた足利尊氏の“人知を超えた存在感”
後半戦では尊氏の圧倒的な強さが美麗な映像とともに描かれた。洗練された顔つきとは裏腹に、何を考えているのか分からない不気味さ。尊氏の行動原理は何なのか。その得体のしれない狂気がラスボスとしての圧倒的なカリスマ性を描き出している。 現在、京では後醍醐政権の中で、権力争いの真っ只中にあった。1人は武士の代表となった尊氏、そしてもう1人は征夷大将軍の護良親王だ。護良親王は帝に背く可能性がある尊氏を討つために、尊氏と対峙する。だが、尊氏の剣の実力は他をも凌ぐ圧倒的なものがあった。尊氏が剣を振りかざした刹那、護良親王の大勢の部下たちの首を一瞬にして切り落としてしまう。一切表情を変えることなく、残虐な行為に及ぶ尊氏に恐怖を抱いた視聴者も多かったのではないだろうか。 尊氏が初登場したのは第一回。時行の前に現れた尊氏は討幕派を鎮圧するために京に向かう直前だった。時行は尊氏の忠誠心に目を輝かせており、誰も尊氏が反逆するとは思ってもいなかった。鎌倉幕府を滅ぼした尊氏は「声が聞こえる……。誰だ? 我を天下に押し上げるのは……」といった言葉を残しており、彼の裏には何者かの存在を暗示させているが、詳細は不明だ。炎の中で声を上げる尊氏は戦いを楽しんでいるようにも見え、時行とは対照的な人物として描かれている。一方で、眼の中に複数の瞳が存在する描写もあるほか、護良親王が「人ではない何かが……それの体内で蠢いている!」と話すなど、人間を超えた人物としての描写も多い。 第六回では民からの信頼を失った護良親王に対して、圧倒的な魅力で崇拝される尊氏が描かれていた。原作ではかなりグロテスクな表現で描写されていたが、アニメでは尊氏の強さを出生から視覚的に描くことで、人知を超えた存在としての尊氏を強く印象づける。 この先、凄まじい武力とカリスマ性を持つ尊氏に対して、時行はどのような逃げの戦術で対抗していくのだろうか。毎話気合の入った作画とともに楽しみたい。
川崎龍也