デートアプリにも依存性? 米国で訴訟も、「いいね」やスワイプで脳に起きることとは
つなぎとめる巧みな戦術
ほかのソーシャルメディア・プラットフォームと同様に、デートアプリもユーザーをつなぎとめようとする理由はある。「デートアプリも企業ですから」と、米ボストン大学のメディアサイエンス助教であるキャサリン・コドゥート氏は言う。「収益拡大が目的であり、そのためにはユーザーをアプリに引きつけておく必要があるのです」 マッチ・グループは、マッチング成立よりもアプリへの残留を重視して利益を上げる設計になっている、という疑惑を否定している。「ユーザーが頻繁にデートしてアプリから退会できるように、私たちは懸命に努力しています」と同社広報は述べている。「筋違いの批判をする人は、この業界の目的と使命を理解していないのです」。マクロード氏もフォーチュン誌のインタビューで、「ヒンジのアルゴリズムはユーザーに会費を支払うよう、誘導してはいない」と主張した。 世界規模のマッチングサイト「マッチ・ドットコム」の主席科学アドバイザーを長く務めるフィッシャー氏も、ユーザーが恋人を得て友人たちにアプリを勧めることがデートアプリのビジネスにとっても最善の結果だと認めている。 一方、米イーロン大学のコミュニケーションデザイン助教であるチェン・“クリス”・チェン氏は、「デートアプリの具体的なアルゴリズムは明かされていませんが、その設計は完全に中立ではありません。たとえば、スワイプはタップするよりも快感があり、プロセス全体をゲームのように感じさせています」と話す。 そして、「ユーザーをつなぎとめるために巧みな戦術を用いています」とチェン氏は指摘する。「たとえば、プッシュ通知やランダムな報酬の提供などです。ユーザーは、いつマッチングが成立するか予測できないので、とてもわくわくするのです」 米スタンフォード大学の社会学教授であるマイケル・ローゼンフェルド氏は、ソーシャルメディア・プラットフォームが発展する現在、デートアプリは比較的有用で業界が意図する目標に忠実であると考えている。 「実際に毎年数百万人の人々がデートの相手を見つけ、デートアプリを削除しています。結局のところ、ユーザーがリアルな相手とデートできないのなら、アプリのユーザーもいなくなるはずです」 ほかのソーシャルメディア・プラットフォームと同様に、デートアプリで不健全な行動に走る人々を科学者たちは目の当たりにしてきた。 「デートアプリのやっていることと、ソーシャルメディアがやってきたこと、その境界は私にとって曖昧です」とアブジャウデ氏は言う。「人々は、自尊心のため、うわべだけのつながりのため、一時的に気分を高揚させるために、デートアプリにのめりこみます」 しかし、こうした行動が本当の依存症に該当するのかどうかは、意見が分かれるところだ。 コドゥート氏は「デートアプリの強迫的な使用に医学的な診断を下すのはためらいがあります」と明かす。ソーシャルメディア依存に関して、広く受け入れられている定義は存在しない。また『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』最新版も、インターネットやソーシャルメディアへの依存を疾患とは認めていない。 それでも、デートアプリをチェックせずにはいられなかったり、禁断症状が出たりなど「依存症の複数の特徴は見受けられます」とコドゥート氏は話す。