ブラックホールは解明できるのか? “ブラックホール先輩”ことジェフ・ミルズの考えを聞いてみた
この世には、私たちに理解できない感覚があるはず
──最近では、テクノロジーの進歩でブラックホールのことが少しずつわかってきましたが、ブラックホールとテクノロジーの関係性についてはどうお考えですか? ジェフ・ミルズ :ブラックホールのような途方もなく大きなものを理解しようとすると、現在の私たちのテクノロジーには限界があるのかもしれません。また、ある種の物理現象は、今の時点では説明できないこともあるでしょう。ブラックホールもまさにそうで、私たちの想像を超えたものがそこにはあるのではないかと思います。 今では、星が死ぬとブラックホールができると考えられていますが、その外側にも私たちには想像もできない巨大なものが存在している可能性がある。それを想像するのは難しいですが、何かがあると考えざるを得ません。なぜなら、ブラックホールを観測してもそれだけでは見えない何かがあるはずだから。 同じように、私たちが理解できない感覚というのもあるはずです。テクノロジーを考える上で、それはテクノロジーと確実に関係していますが、今のテクノロジーでは、それ以上の予測はできません。私たちは宇宙科学や物理学の知識を使って、物理的な限界で何ができるのかを知ろうとしますが、それだけでは説明できないものがあるんです。 つまり、その限界を超えてしまうと、ブラックホールの中から出てくるものがあるということを理解できないんです。最近、それを説明する方法が発見されたそうですが、実際にはそのような方法では到底説明できないでしょう。ですから、遅かれ早かれ、数字などでは計算できない事象が出てくるはずです。そう考えると、近い将来、テクノロジーの限界に達することが予想されます。 C.O.L.O :テクノロジーは人間の願いや欲望の外在化であり、切り離せない相互依存関係にあると思います。たとえば、初めて飛行機で大西洋を横断したリンドバーグは、成功に導いた愛機を生き物に例えているんですよ。飛行中に生命と死を鋭く感じる中、どちらも相手の誠実さに依存していて、横断飛行を成し遂げたのは自分でもなく飛行機でもなく"我々"だったっていう表現を使って、大西洋上で得た完全なる人間とマシンの一体化を回想していたんです。もちろん、このバランスが崩れると歯車がズレてしまい、破滅的な方向へ進むこともあるんですけどね。 だから、ブラックホールのようなテクノロジーを超えた事象に立ち向かう時、テクノロジーと人間による依存関係を最善な形で結び直すことで、さらなる段階へと進化していくんじゃないでしょうか。 この公演に関しても、ジェフからは「予期せぬ何かに遭遇する」というワードが何度か出ていました。音をマスターとするタイムラインや、特定のタイミングに映像を完全に同期した状態を恒常的に作りながらも、時にはそこから敢えて外れて、想定外の中でハプニングを起こしていくような演出を、映像に度々取り入れました。 エントロピーの崩壊とそれを揺り戻す制御との関係というか。僕たちの映像や照明のシステムが環境と相互作用していき、新たな環境が形成されていく場として、あの空間を見立てていました。 ──戸川純さんが歌う今回の公演のサントラ曲「ホール」では、テクノロジーとブラックホールの関係性を示唆するような歌詞があります。そこにジェフさんの考えが反映されているという認識で正しいですか? ジェフ・ミルズ :その通りです。戸川さんはそのことを理解されているんですよ。だからこそ、その曲でそういった内容を歌っているんです。彼女の魅力は良い意味で計り知れないところがあると言う人が多いと聞きますが、私から見ると逆に現実的なところもあるんですよね。彼女は誰よりも人間の複雑さを理解しているアーティストだと思います。 ──ジェフさん自身も、人間の複雑さを理解しようとしていて、その複雑な部分から不要なものを削ぎ落とし、本質的なメッセージを直接的に伝えることを心がけているように感じます。 ジェフ・ミルズ :そうですね。できるだけ多くの人に自分のメッセージを届けたいんです。でも、私たちには時間が限られていますから。私は、頭の中で次から次へと湧き出てくるアイデアを表現する方法として、音楽というものに出会えたんです。音楽を使わなければ、話したい人とただ話をするだけで終わってしまう。でも音楽なら、自分のアイデアを多くの人と共有するための近道になる。そう考えるようになったんです。 ──今日のお話を伺っていて、もしジェフさんが何かデバイスを開発されたら、きっと機能性と使いやすさを兼ね備えた素晴らしいものができるだろうなと思いました。 ジェフ・ミルズ :そんな風に思ってもらえるとうれしいですね。でも正直なところ、もし私がデバイスを作ったとしたら、かなりのヒット商品になるでしょうね(笑)。 ジェフ・ミルズが導く究極のサウンドトリップ 先行シングルとなる「矛盾」とアルバム収録曲「ホール」では日本の音楽シーンにおいて圧倒的な存在感を放つレジェンド、戸川純をシンガーとしてフィーチャー。 「矛盾」はジェフ・ミルズと戸川純の世界観が有機的に溶け合い結晶化、今までのジェフ・ミルズのイメージからも解き放たれたバンドサウンドかつミニマルな浮遊感溢れる楽曲となっている。「ホール」は”真性ジェフ・ミルズ”なビートに戸川のアヴァンギャルドな詩と歌、不穏なシンセサイザーの音が絡み合う。 両曲共に戸川がボーカルを務めるバンド、ヤプーズの山口慎一、ヤマジカズヒデも録音に参加。 アルバムには「矛盾」「ホール」の別MIXや、じわじわとした切迫感が漲る「Beyond The Event Horizon」、スペーシー現代音楽ともいうべき「Time In Abstract」、レトロSF映画のサントラにも通じる「When Time Stops」、3つ打ちのビートが心臓音のようにも聞こえ、体内を彷徨っているような「No Escape」、ドープなベース音とシーケンスのループが時間が遡る様を描く「Time Reflective」、アルバムの最後を飾るに相応しい極上のミニマル「Infinite Redshift」など様々なタイプの楽曲全12曲を収録。 ジェフ・ミルズの宇宙観/思考を具現化したコズミック・オペラ『THE TRIP -Enter The Black Hole-』。そのサウンドトラックは日本のアヴァンギャルドの雄、戸川純とヤプーズをも飲み込み、世界中のテクノミュージックファン、アンダーグラウンドミュージックのファンを虜にする至高の音楽集となっている。 < CD > 全13曲収録 ※CDのみボーナストラックを1曲収録 リリース日:2024年4月24日 価格:¥2,700(税込) 品番:UMA-1147 <配信> 全12曲収録 リリース日:2024年3月20日 0時(JST) ダウンロード価格:通常¥1,833(税込):ハイレゾ:¥2,750(税込) 配信、ダウンロードはこちらから < アナログレコード > 全8曲収録 LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定 リリース日:2024年5月22日 価格:¥7,700(税込) 品番:PINC-1234-1235 _LP Source: U/M/A/A , COSMIC LAB
Jun Fukunaga