ブラックホールは解明できるのか? “ブラックホール先輩”ことジェフ・ミルズの考えを聞いてみた
AIが台頭しても再現できないものとは?
──最近は音楽制作の分野でAIが台頭し、音楽制作が以前より簡単になりました。これまでのようにハード機材やソフトで音楽を作るのではなく、AIに移行しつつある状況をどう思われますか? ジェフ・ミルズ :正直、ちょっと気味が悪いですね。AIがアーティストの代わりになるとは思えません。いつかそうなるかもしれないけど、そうなってほしくはないですね。アーティストとして何かを考え、録音し、それを聴く...という創作のプロセスは変わらないと信じたいです。でも、テクノロジー、特にAIが簡単に何かの代わりになる可能性は否定できません。私たちが深く認識していないものも、いつかはテクノロジーに取って代わられることもあり得ます。 たとえば、近い将来スタジオエンジニアの仕事がなくなるかもしれません。AIがなんでもやってくれるなら、そういう仕事は指示を出すだけの退屈なものになりかねないと思います。それにDJだって、今よりももっとエンターテイナーやイベントのホストにならざるを得ないかもしれないし、逆に選曲やテクニックといった本質的なことが重視されるようになるかもしれません。これに関しては、みんながDJに何を求めるかによるので、まだよくわかりません。 ただ、物事は変化するから断言はできませんが、すべてがAIに置き換わる可能性はあります。今のイベントのお客さんはDJをそんなに気にしていない気がするというか、いろいろ求めてないんですよね。だから、このままだとDJの仕事がAIに取って代わられるんじゃないかという危機感はあります。 でも、AIが台頭したからといって、ミュージシャンの仕事がなくなったり、音楽レーベルが不要になるとは限りません。これはみなさんがアーティストやDJをどれだけ大切な存在だと思っているかに掛かっていると思います。 ──以前、ファッションショーでジェフさんがRolandの「TR-909」を使って即興演奏している動画を見ましたが、あれはきっとジェフさんにしかできないパフォーマンスだと思いました。 ジェフ・ミルズ :あの時は、何分間か演奏する時間があるので、即興でやってくださいと言われただけでした。だから、なんでもありという感じでしたね。正直、何をやったのかあまり覚えていないんですが、ひとつだけはっきりと覚えているのは、リアーナが目の前に座っていたことですね(笑)。 ──去年のRainbow Disco Clubでも、CDJとTR-909を組み合わせた独創的なDJセットを披露されていましたが、そういった表現は、まだAIには簡単に再現できないと思います。 ジェフ・ミルズ :そう思うのは、あれが単なる機械的なものではなく、肉体的なものだったからです。それに観客の反応があるというのも大きいですね。時々、音を重ねたり止めてみたりしながら、オーディエンスの様子を見て次の展開を考えています。これは、その場の情報を自分の中に取り込んでいるからこそできることなんです。 この投稿をInstagramで見る Jeff Mills(@jeff_mills_official)がシェアした投稿 こういったパフォーマンスのもっと面白い例は、私が以前やったDJとオーケストラのコラボレーションです。このパフォーマンスでは、他の演奏者は楽譜を見ているんですが、私には楽譜がないんです。その時の私は、ミュージシャンでありプログラマーでもあるような立ち位置で、オーケストラの演奏に合わせて即興でDJプレイをしました。 使う機材はTR-909、TB-303、CDJ、ミキサー、エフェクターなどですが、すべて即興なので、どういう順番でアプローチするかは決まっていません。その時々の感覚で、機材を組み合わせて演奏するので、後から再現しようと思ってもできないんです。こういうやり方で曲を作るのは、少なくとも今のAIにはまだ無理でしょうね。