阪神・村上 今季はリリースポイントが7センチ高く、最大の武器「真っスラ」が姿を消した
本紙阪神担当が、24年シーズンを深掘りしながら振り返る「虎番プレーバック2024」。7勝11敗に終わった阪神・村上頌樹投手(26)は、最優秀防御率に輝いて新人王とセ・リーグMVPを獲得した23年と比べると、精彩を欠いた印象が残った。直球のシュート成分が増え、最大の武器だった「真っスラ」が姿を消したことが大きく影響した。その一因は、リリースポイントが昨年よりもボール1個分高くなったことにあった。 村上がその違いに気付いたのは夏場だった。今の日本球界は、米国同様に球場に設置された計測機器で、回転数だけでなく、ボールを離す位置も可視化できる。大ブレークした23年に比べてボール1個分、約7・3センチ、リリースポイントが高くなったことを、コンピュータ上の数値が示した。それを投手コーチを通じて伝えられた。 「自分では去年と変わらない感覚で投げていたので。7月か8月くらいに言われて“あ、そうなんや”って」 自覚はなかった。ただし、身長1メートル75の上背がないタイプとしては、良くない傾向ということも理解できた。「高い身長から投げ下ろす才木と違って、自分はボールが下から伸び上がるイメージ。上ではなく前でボールを離した方が、打者はそれを感じやすいと思う」。指摘を受け、短期間、右膝を曲げて重心を下げた。しかし、なじまずにすぐ元に戻した。「1個分」を知った後も勝ったり負けたり。2年連続で規定投球回に到達して防御率2・58の成績を残しながら、波に乗れない印象を残したまま、シーズンが幕を閉じた。 実は春先から別の問題を抱えていた。安藤投手コーチが明かす。「直球のシュート成分が増えていた」。最優秀防御率を獲得してMVPに輝いた昨季、最大の武器だった「ホップしながら鋭くカットする独特の軌道」が、影を潜めた。カットしなかったり、逆にシュート回転で中に入って打たれた。今季の直球の被打率は・267。昨季の・192から大きく跳ね上がった。 リリースの高さとシュート成分の増加に因果関係はあるのか。同コーチは「関係あるかもしれない」と推測した。続けて、フォーム変化の原因を「昨季からの疲労が下半身の柔軟性を奪った可能性がある」と探った。問題は腕の振りではなく、股関節のクッション性の低下だと指摘した。 村上も同調する。「うまく体重が乗り切れなかった部分がある。下半身がちゃんと動けば、ボールがいく感覚はあるので」。振り返れば、昨オフ、無我夢中で駆け抜けたシーズンの疲れに気付かず「強度の高い練習をがっつりしていた」。その反省から、今オフは「軽く体を動かしながら疲労を抜く感じ」と追い込み過ぎない日々を送る。その目には、無双ピッチングを取り戻す道筋がはっきりと見えている。(倉世古 洋平) ○…村上(神)の球種別被打率を見ると、23年は全ての球種で1割台に抑えていた。今季は直球に加え、カットボールとツーシームの速球系がいずれも2割台に悪化。特に対右打者のカットボール被打率は、23年.133(45打数6安打)から24年.339(62打数21安打)と攻略されていた。 ○…プロ野球の統一試合球の基準は「反発係数は0・4134をその目標値とする。周囲は9インチ~9インチ1/4(22・9~23・5センチ)の範囲内。重量は5オンス~5オンス1/4(141・7~148・8g)の範囲内。縫い目幅は16分の5インチ(0・8センチ)、縫い目高さは28分の1インチ(0・9ミリ)をそれぞれ標準とし、またその縫い目の数は108とする」とされている。この基準の周囲の数値をもとに算出すると、ボールの直径は7・29~7・48センチとなる。