保育所おやつで重い障害、高裁で「逆転勝訴」…なぜ市の「責任」は認められた? <判決文から>
● 市側の「職務上の注意義務違反」を認める
厚労省は2016年、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)を取りまとめている。ガイドラインでは、過去に誤嚥や窒息などの事故が起きた食材や、食事を介助する際の注意点が指摘されている。 判決文によると、このガイドラインは事故が発生した保育所にも提供され、保育士らも閲覧していた。また、保育所はこのガイドラインの内容をもとに、危機管理マニュアルを作成していた。マニュアルには、ウインナーやソーセージについて、注意する食材とはされていなかった。 また、当時消費者庁の発表では、2010年から2014年まで、14歳以下の窒息死事故が623件あり、そのうち食品による窒息事故は103件だった。ホットドッグや菓子パンによるものは4件あった。 こうしたことから、判決文では、保育所の所長ら管理職員には、窒息のおそれがある食材としてパンとウイナーがあることや、現に死亡事故が起きていたホットドッグの危険性について、調理担当者や保育士に十分認識させる必要があったと指摘した。 誤嚥防止のためには、「ホットドッグを小さく切り分ける」「皮付きのウインナーを提供するのであれば縦半分に切る、表面に切れ目を入れる」など、提供方法に十分配慮するよう調理担当者や保育士に周知、実践させる義務があり、職務上の注意義務に違反があったと結論づけた。
● 再発防止のためにはどうすれば
男児や家族の代理人はこの裁判の中、保育所で提供されたホットドッグの再現実験もおこなっている。 その結果、提供されたホットドッグは細くちぎるのが難しく、皮付きのあらびきウインナーの皮は子どもの狭い気道に張り付いてふさいでしまう可能性が高いと結論づけている。判決でも、ホットドッグは厚さ5センチ、直径1.8センチ程度で、小さくちぎってたという市側の主張を否定した。 男児側の代理人弁護士3人は判決を受けて10月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。代理人の一人、千原曜弁護士はこの事故について次のように語った。 「誤嚥事故を防ぐために、厚労省などから食材の選定や提供方法など、詳細なマニュアルが出ています。これを守っていれば基本的に事故は防げるという形になっています。しかし、マニュアルの内容を知っていながら、保育所ではほぼ守られていなかった。そのために不幸な誤嚥事故が起きてしまった。 一方で、現場で保育士の数が足りないということも、一つの要因になっていると思う。この事故でも、男児たちに食事をあげている時、隣の子が泣いており、振り返ったら男児が誤嚥していた状況がある。保育士の配置は十分だったのかということを強調したいです」