「マイナンバー×健康保険証」一体化で起きる大論争、解決に導く“3つの選択肢”とは
「健康保険証×マイナンバー」の問題、立憲はどう考えてる?
一方、冒頭に述べたように立憲民主党は、2024年11月12日に保険証廃止延期法案を衆議院に提出している。 立憲民主党は、「マイナンバーをめぐるトラブルが続出する中、政府はマイナンバー法改正案の成立を強行し、今の健康保険証を来年秋に廃止し、一気にマイナンバーカードに一本化しようとしています。立憲民主党は、今の健康保険証も使用可能にしておくべきと訴えています」としつつ、「国民の不安払しょくのために、(1)健康保険証の廃止を延期、今の健康保険証を存続、(2)徹底的なシステムの総点検」を主張している(注2)。 注2:マイナ保険証問題.立憲民主党HP,https://cdp-japan.jp/feature/maina-health-insurance-card_problem 法案では、発行停止の期日は、「マイナ保険証」への移行が安全に行われる環境が確実に整ったかどうかなどを勘案し、別途、定めるとしている。つまり、期限を決めずに紙の保険証発行を継続するという法案だ。 筆者としては、これは逆にマイナ保険証への移行を遅らせるだけであり、前述の2枚持ちを拡大させる結果を生むと考えている。 災害時こそ、避難先で被災者の過去の病歴や投薬履歴を瞬時に確認できるマイナ保険証の有効性が医療現場で発揮されるし、高額医療費の上限が自動的に計算されるので、お金が無くて診療が受けられないというリスクも減る。低い確率で発生する顔認証トラブルなどを理由にするならば、デジタル化を根本的に否定するのと同じだ。紙とFAXの世界を続けようということだ。 国民の“不安”を問題視するならば、その不安の原因を分解し、原因の解決に時間をかけることが合理的であるか否かを説明しなければならないと考える。
マイナンバーに関するあらゆる報道…どう解釈すれば良い?
マイナカードについては、複数のインシデントがセンセーショナルにメディアで取り上げられ、これが不安を煽る形になってしまっているように思える。それらを振り返ってみよう。 まず、公的給付を受け取る銀行口座登録で、他人のマイナンバーに紐付けてしまうミスが発生した(デジタル庁が2023年5月23日に発表)。これは市役所の窓口端末におけるマイナポータルに対するログアウト/ログインのオペレーション不徹底のミスである。 そもそも、マイナポータルのログイン後画面は、ログイン者が“わたし”としか表示されないので、たしかにオペミスが発生しやすい。だが、その点を除けば、システムの欠陥でも技術的な脆弱性でも無いのだが、そんなことは普通の人には分からない。情報の取り扱いは自己責任というのがマイナカードを利用したシステムの本質だ。 マイナンバーと銀行口座の紐づけ作業は、市民が自己責任で行うべきことであり、市役所の窓口の人にお願いするのが筋違いなのだ、ということは普通の人には分からない。 そのほか、コンビニ端末で、マイナカードで他人の証明書が印刷されてしまうという事故が、2023年3月30日から2024年4月4日にかけ横浜市や高松市で発生した。これは富士通子会社のシステム設計の瑕疵(かし)であり、なんと最初の事故から約1年後にも再発したという品質の悪さには呆れるものの、印刷サービスという周辺システムの問題であり、マイナポータルのデータベースそのものが紐づけ間違いを起こしている訳ではない。 だが、そんなことは普通の人には分からない(なお、公共サービスデジタル化のお寒い状況は、筆者の過去記事「Web3×金融ビジネス」は日本で成立する?」にも記載したので参照されたい)。 また、偽造マイナカードで、勝手に機種変更され、携帯電話を乗っ取られる被害が、2024年4月頃から複数件発生している。これは携帯電話ショップで、マイナカードのICチップを読み取らず、券面の目視のみで手続きをしたことが原因であり、マイナカードのICチップの堅牢性になんら問題はない。 だが、そんなことは普通の人には分からない。マイナカードの偽造も簡単にできるという印象のみが拡散された。それを言うなら運転免許証の偽造はもっと多い。 前述のように情報を紐づけるのは、国でも自治体でもなく国民自身の自己責任であり、紐づけたところで、他者や国家が辿れる訳でもない。しかし、テレビのワイドショーなどで「個人情報が紐付けされている、国が情報を集めている」といった印象を与える意見があれば、それを信じてしまう人もいるだろう。 要するに、これらの問題は、マイナ保険証導入時の初期トラブルか、暫定的な経過措置に関わる地方自治体業務の初期トラブルが原因にあるのだ。被保険者のほぼ全員がマイナ保険証に移行して、そのオペレーションに慣れれば、すべて解決するような性質の問題である。 にもかかわらず、筆者の目には、トラブルの事象を誇張したり、医者の廃業をマイナ保険証絡みに見せたりして、マイナ保険証そのものを止めた方が良いという、幹と枝葉をすり替える論法が繰り返されているように映る。