《女性芸人に求められる「役割」が変化》価値観は多様化し“自分のやりたい仕事”にシフト、新たなスターも次々と誕生
メディアの多様化は女性芸人を解き放ち、自由に生きられるようになった
2000年代に入ると『エンタの神様』(日本テレビ系)、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)などのネタ番組が高視聴率となり、気鋭の女性芸人が続々登場、ブームが誕生した。お笑い評論家のラリー遠田さんが語る。 「ハリセンボン、友近さん、にしおかすみこさん、北陽、いとうあさこさんたち。彼女たちは最初はネタが注目されて、徐々にタレントとして成長していきました」(ラリーさん・以下同) 人数が増え、時代の変化とともに女芸人に求められる「役割」も変化していく。 「日本社会はかつて女性の役割が制限されていましたが、生き方や価値観が多様化するとともに、女性が自由に生きられるようになりました。それと同じで、多様化とともに女芸人の“縛り”がなくなり、渡辺直美さんのように芸人としてだけではなく、モデルや下着ブランドのプロデュースなどマルチに活躍の場を広げていく人が出てきています」 さらにお笑い界に大きな変化をもたらしたのは、私たちの意識の変化だ。西澤さんが指摘する。 「そもそも視聴者のウケの変化に気づかなければ、笑いはとれないんです。何が面白いのかを決めるのはあくまで視聴者や観客で、その変化を敏感に感じ取らないと芸人は生き残れません。 ひと昔前の芸人は容姿いじりや脱ぎ芸、わざと痛いことをして笑いをとっていたけど、いまの若い子は全然面白がらないし、むしろドン引きしてしまう。容姿いじりは倫理的に問題があるからやってはいけないというより、単にお客さんが反応しなくなったんです」 ラリーさんも「お笑いは見る側がどう感じるかが問題」と指摘する。 「お笑いは見る側が笑うことをやるのが大前提で、時代が変わってそれまでのネタで笑いがとれなければネタを変えるだけ。容姿いじりを嫌がる風潮になったことは、芸人たちは冷静に受け止めています。ブスいじりが廃れる一方、まだ男性芸人には“ハゲ”や“オッサン”などの容姿いじりが残っていますが、これらも今後は消えていくかもしれません」 価値観の多様化にはメディアの変遷も影響している。特に2000年代からのお笑いブームの舞台となったテレビ離れは深刻で、若者のネット利用時間はテレビの視聴時間をはるかにしのぐ。 「これまではイモトアヤコさんやキンタロー。さんのようにテレビを通じて女芸人がスターにのし上がったけど、いまは渡辺直美さんやゆりやんレトリィバァさん、フワちゃんのようにテレビによるブレークを利用しつつ、テレビに固執せず自分のやりたい仕事にシフトする女芸人が目立ちます。ユーチューバーやインフルエンサーといったSNSを舞台にした新たなスターも次々と誕生しています」(西澤さん・以下同) 時代が目まぐるしいスピードで動いていく中で、女芸人が大きな変革の渦の中にいることは確かだ。 「テレビがナンバーワンでなくなり、人々の意識が変化してネットからも新たな才能が出てくる現在、“女芸人とは何か”というアイデンティティーが揺らいでいます。求められる役割がなくなる分、本当に面白いこと、自分のやりたいことをつきつめられないと生き残れなくなってくる。社会でも女性の社会進出や男女平等が進む中、女芸人も含めて大きく言えば、“女性はどう生きるのか”という問いを見つめ直す時期が来たのかもしれません」 島田は後輩たちに、こうエールを送る。 「いろんな気持ちを味わって、泣いて笑って怒って、いろんな気怒哀楽を感じて。授かれるのならば出産もし、子育ても味わって。せっかく女性に生まれたので、“女性芸人だから!”って気張らずにお笑いを楽しんでって伝えたいですね。私は顔が三枚目でここまでやってこれたので、言うんですけど」 時代の移り変わりとともにお笑いも変わっていく。それでも、これまで多くの先人たちが男社会に埋もれず、「どやさ!」とばかり道を切り開いてきた女芸人たちは、これからも私たちに笑いを与えてくれるだろう。 ※女性セブン2024年7月4日号