明らかになってきた資本主義と民主主義の「限界」、このディストピアでも「幸せを感じられる」生き方
(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO) ■ 「投票したい政党がない!」 岸田内閣の支持率が低空飛行を続けています。各メディアが実施した世論調査を見ると、国民の間に政権交代への期待が高まっていることがうかがえます。 【写真】「民主主義は最悪の政治形態」と語った英元首相チャーチル(左)と「喜劇王」チャップリンのツーショット。1929年 朝日新聞が5月18、19日に実施した世論調査で、今後の政権は「自民党を中心とした政権が続くのがよい」か、「自民党以外の政党による政権に代わるのがよい」かという問いに対して、〈自民党中心〉と答えた人が33%、〈自民党以外〉と答えた人が54%となりました。 毎日新聞の5月18、19日の調査では、総選挙での比例代表の投票先について、自民党という回答を立憲民主党という回答が上回りました。自民党への逆風は、政治資金をめぐる裏金問題に対する国民の怒りに端を発しているのは明らかです。 こうしてみると、野党第一党の立憲民主党に追い風が吹いているようにも見えますが、2009年に政権交代を実現した時のような世論の熱気は感じません。また一時期、維新の会への期待も高まっていましたが、こちらも最近は様々な補欠選挙などで立憲民主党に後れを取っている感じです。つまり、現時点での世論の大勢は、「自民党に鉄槌を下してやりたい」という思いがありながらも、自民党に代わる投票先を見つけあぐねている、というところではないでしょうか。 これは民主主義の大きな挫折ととらえることもできます。
■ 「民主主義は最悪の政治形態」 イギリスの元首相、チャーチルはこんな言葉を遺しています。「民主主義は最悪の政治形態と言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」。今の日本は、まさにチャーチルが述べたような状態の真っただ中にあります。 自民党には与党の座を下りてほしいけど、信頼できる政党がほかにない。だからといって民主主義を捨て去って中国やロシアのような強権国家に変わりたいわけでもない――。いうなれば、民主主義の限界が見えてきている袋小路のような状況にあります。 政党のお金の使い方については、今回の自民党の裏金問題を受けて実施される予定の政治資金規正法の改正によって、どんどんガラス張りになるでしょう。政治にかかるお金の流れが透明化していくのは一見とてもいいことなのですが、一方で過去には物事を前に進めるため、野党対策などにお金を使うという実態もありました。お金は人間社会を動かすための潤滑油にもなります。今後、政治資金の使途がどんどん透明化されていくのはもちろんいいことなのですが、人間社会的に見ると、潤滑油がなくなり、社会の動きがぎくしゃくする面、つまり正論と正論の対決の中で物事が動かない、ということも頻発してくる可能性があります。 しかしだからといって国民が「じゃあ、少しは不透明なお金の流れにも目をつぶろう。世の中、理屈だけで動くものでもない」などとは思わないでしょう。正確には、これまでの日本人には、そうした良く言えば懐の深さ、悪く言えば、不透明な部分を飲み込む“ゆとりのようなもの”がありましたが、近代合理主義・客観主義に凝り固まりつつある現代日本人には、この理屈は通用しなくなっています。 小学校のクラスを見ても明らかですが、全く透明化された状況の中で、正論しか吐くことができなくなった完全無欠なる“学級委員という存在”(一般社会における政治家のアナロジー)が必要だとして、誰がその人になりたいと思うでしょうか。また、そういう人が本当に、クラスの皆の気持ちを代弁してくれるような人、平たく言えば、人気がある人として存在しうるでしょうか。ちょっと変わった人、というレッテルを貼られ、敬して遠ざけられるのが関の山で、実際、現代民主主義社会における政治家は、そうした様々な意味で人気のない、なり手のない職業に成り下がりつつあります。