軍国主義の元凶「参謀本部」の廃止を唱えた直言居士がたどった末路
列強の誤解を解くために
要旨はこうである。 軍国主義を奉じたドイツとオーストリアは欧州大戦に敗れ去り、正義と人道を標榜(ひょうぼう)する英国、米国、フランスが勝利を収めた。 今後五大国の一角として日本が真面目を発揮しようとするのであれば、我が国も正義と人道に重きを置いて、列国から誤解されるようなことがあってはいけない。 日本の制度文物はドイツに模倣私淑するものが多く、日清、日露戦争と勝利をあげて世界を驚嘆せしめた結果、我が国の実情をよく知らない者の中には、日本は「第二のドイツ」であると呼ぶ者さえおり、こうした誤解はどうしても解いていかなければならない。
四つの具体案
これが『内外国策私見』の基調であり、以下にその誤解を解くための具体策を中心に四つの政策が挙げられていた。 一、対中国要求の緩和、欧州大戦中に最後通牒(つうちょう)をもって中国に突き付けた対華二十一カ条要求であるが、これが欧米において「日本は軍国主義」と喧伝(けんでん)される要因になっているので改めなければならない。 二、参謀本部の廃止。帷幄上奏権を持ち、統帥権によって内閣から独立しているのは、ドイツの制度を模倣したものであって、ドイツが負けて参謀本部が解体された今、五大国にこんな制度を持つ国はない。 これこそが日本は軍国主義であるとの印象を外国に与えている。参謀本部を持ったドイツは軍事的に戦争に負けたのである。 三、農商務省を廃止して、農林省および商工省を設置すること。 四、文部省を廃止すること。小中学校の経営監督は地方自治体に任せ、その地方に応じた教育をほどこすべきである。また公立大学はその特典を廃止し、私立大学と平等に競争するようにしなければならない。
直言居士の真骨頂
「一片耿耿(こうこう)の志を国家のため沈黙するわけにはいかず、あえて先輩諸公の曇りのない判断を仰ぐ次第である」 と是清は締めている。今こそいうべきことはいわせてもらう。耿耿とは、かたく思っていることがあって忘れられないさまである。 もっとも是清は普段からそういうところがあるからこそ直言居士とも呼ばれていたのだ。 「高橋は八分の意見を述べればよいところを十二分述べる」 これは渋沢栄一の是清評のひとつである。