【防災モデルダムが引き起こした災害】 死者114人の悲劇を伝える「平和池災害モニュメント」―惨事を後世に引き継ぐことこそ使命
農研機構がリアルタイムのリスク予測システム
専門家はどう見ているのだろう。農業土木を専門とする毛利栄征(よしゆき)茨城大学名誉教授は、「危険が予想されるため池に対し、都道府県知事が計画的に防災対策を行う仕組みが整備されたことは高く評価できる」とする。また、「調査結果報告書」は課題と提言も述べており、「防災行政のベースとなる考え方と運用の方向性を示すものとして自治体の具体的な活動マニュアルの策定に大きな意味を持つ」と評価。今後はこれに基づいて国や自治体、関係機関で切れ目のない役割分担ができるようにしていくことが必要だという。 ため池防災は「令和」に入り必死に遅れを取り戻そうとしているように見える。そんな中でリスク回避の “助っ人” として登場したのが、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が2018年度に公開、20年度から運用が始まった「ため池防災支援システム」だ。人工知能(AI)も活用して、ため池決壊の危険度をリアルタイムで予測・表示して被害の防止のための情報を自治体などに提供する。 毛利教授はこのシステムを「リスク回避を実現する画期的なもの」と称賛する。農研機構が15 年以上前から取り組んできたため池の防災減災にかかわる研究・技術開発の成果の一つで災害情報を的確に収集し共有できるという。最新システムの活躍に期待が高まる。 同時に、「平和池水害伝承の会」のような取り組みが地域で続くことも願わずにはいられない。毛利教授も「『語り継ぐ』ことは地域の災害に対する高い耐力を育む礎になる。全国に広がることを切に願う」と話している。
【Profile】
阿部 治樹 1977年北海道大学工学部応用物理学科卒。米国留学を経て1983年に朝日新聞入社。横浜、札幌で事件記者や市役所担当を経験後、主に東京本社で、暮らし、文化・芸能ニュースをカバー。1996年~1999年ニューヨーク支局員。2013年~2020年はシニア地方記者として岡山、滋賀両県で地域・行政ニュースを追いかけ、選挙取材もこなした。朝日新聞退社後はフリーランス記者として活動。