【防災モデルダムが引き起こした災害】 死者114人の悲劇を伝える「平和池災害モニュメント」―惨事を後世に引き継ぐことこそ使命
西日本に集中、決壊も頻発
農林水産省防災課の調べでは、2023年12月時点で、ため池は全国に15万1191カ所あり、約半分が西日本にある。農業用水を確保する手段として地域に根付き、景勝地として住民の憩いの場になっているものも少なくない。ただ、江戸時代以前に造られたものが約7割で、劣化の進行とともに近年は豪雨などによる決壊が頻発しているという。
同課のまとめでは、2013年~22年のため池被害は7098件に上った。さらにさかのぼれば、2004年に新潟県中越地震と10回の台風上陸で被災は4500件余り、2011年も東日本大震災の影響で4000件近くに達したこともある。
ちなみに、東日本大震災では福島県須賀川市の藤沼ダムが決壊し、7人死亡、1人が行方不明となった。藤沼ダムは平和池ダムと同じアースダムで被災状況が似ていたこともあり、亀岡市の「伝承の会」は被災地に義援金を贈るとともに、被災者有志がつくった「藤沼湖決壊による慰霊碑建立実行委員会」と災害の記憶を後世に伝える活動で連携している。
防災工事必要1万カ所、着工メドは2割
政府はこうした状況を踏まえ、2019年に「ため池管理保全法」を施行。市町村長にハザードマップなどで住民にため池の決壊に関する情報の周知に努めることを義務付けた。さらに翌年には「ため池工事特措法」を施行。周辺に住宅があるなど人的被害が想定されるため池を都道県知事が「防災重点農業用ため池」に指定、防災工事を集中的・計画的に実施する仕組みを整備した。2023年度末の時点で対象のため池は全国で5万3399カ所ある。 総務省行政評価局は上記2法の施行を受けて2022年10月~24年6月に11府県の66市町村を対象に「ため池の防災減災対策に関する調査」を実施した。6月21日に出た調査結果報告書を読むと、防災工事など全体として遅れが目立つ。 「特措法」による劣化状況評価で防災工事が必要と判断された防災重点農業用ため池は2022年度末時点で1万89カ所。しかし、その時点までに着工していたのはわずか10%の1024カ所。同法は2030年度までの時限立法で、必要とされる防災工事を同年までに実施することを目標としているが、それまでに着工のめどが立っているのは23.6%の2380カ所にすぎない。ハザードマップについては、作成すべき対象のため池8543カ所のうち作成済みは半数弱の4229カ所だった。