MLBアナリストがデータで見た大谷翔平の進化 「30センチ」「全球種で長打」
2024年の米大リーグで、ドジャースの大谷翔平選手が史上初のシーズン「50本塁打、50盗塁」を達成し、最終的に「54-59」まで数字を伸ばした。ナ・リーグ最多の54本塁打と130打点を記録し、打率もリーグ2位の3割1分で三冠王にも迫った。今季は持ち前の長打力に磨きがかかると同時に、走力という武器も示した。大リーグ公式サイトでデータ分析を担当するデービッド・アドラー氏は「大谷翔平のことで驚くのはもうやめたよ(笑)。彼は毎年、進化する方法を見つけ出す。50-50を達成したことは驚きに値するけれど、できるとしたら彼だけだからね」と驚嘆の声を上げた。(時事通信ニューヨーク総局 岡田弘太郎) 【写真】ロッキーズ戦で54号3ランを放ち塁を回るドジャースの大谷翔平 ◆「1フィートの差は大きい」 ―今季の大谷は59盗塁と、昨季の20盗塁から約3倍に増加した。その理由についてどう考えるか。 (アドラー氏)スプリントスピードは大きく変わらない。目を見張るのは(出塁時の)リードが昨季より1フィート(約30センチ)大きくなったことだ。投手が投球動作に入った際のリードが昨季は13.3フィート(約4メートル5センチ)だったが、今季は14.3フィート(約4メートル35センチ)。明らかに盗塁を増やそうという意識の変化がみられた。走塁で1フィートの差は大きい。 ―投手としては、昨年の右肘手術からのリハビリのシーズン。打者に専念できたことも盗塁数が増えた要因では。 もちろん、それも大きいと思う。打者に専念したことは大きな助けになったと考えるのは自然だ。投手につぎ込む体力を走塁に注げるからね。あとはチームの方針も理由の一つではないだろうか。フリーマンのようにドジャースに来てから盗塁数を増やしている選手もいる。チームとして盗塁への意識が高いのも、大谷の盗塁増加の要因ではないかと思う。塁上でよりアグレッシブになったことは間違いない。あとは彼が投手であるということも忘れてはいけない。投手の癖やタイミングなどで、マインドを読み取ることができるのも彼の強みだ。 ◆「完璧な打者に近づいている」 ―打撃では本塁打と打点に加え、134得点、411塁打、出塁率3割9分、99長打、長打率6割4分6厘、OPS1.036の計8部門でナ・リーグトップを記録した。2024年の大谷の打撃をどのように評価するか。 全てで進化した。パワーとスピードを史上最高レベルで兼ね備えたシーズンだと言える。大谷が進化することにもう驚きはないが、さらなる高みに登った印象を受ける。昨季も全てにエリートレベルの数値を残したが、それがさらに進化し、完璧な打者に近づいている。 ―大リーグでは今季から新たな指標「バット・トラッキング」を採用した。その中でより速いスイングで、どれだけバットの芯で球を捉えたか」を表す新指標「ブラスト」という数値がある。大谷の「ブラスト」はメジャー最多の223スイング(2位はヤンキースのソト)。 より速いスイングスピードからバットの芯で打球を捉える能力がリーグトップであるということ。それは大谷の打撃成績を反映している。ナ・リーグで最も危険なスイングであることを示している。 ―本塁打にした投球を球種別に見ると、速球を捉えたのは21本で、変化球は23本、オフスピードが10本だった。昨季は速球への対応で進歩が見られたが、今季も全球種への対応力が顕著に表れているのでは。 今季の大谷は全ての球種に対応しているのはもちろん、全ての球種で長打を放っているのが特徴的だ。本塁打の割合を見るとそれは明らか。球種別のスイングスピードでも、スライダー系は76、77マイルで、カーブには76マイル。直球とオフスピード(スプリット、チェンジアップ系)も76マイル。全ての球種に対して速いスイングで対応している。ジャッジも同じく全球種を77マイルあたりで捉えている。大谷のスイングスピードはシーズンが進むにつれて速くなっていった。シーズン序盤に右肘手術のリハビリがどれくらい影響したかは分からない。 ◆ジャッジとどちらが強打者? ―ア・リーグ2冠に輝いた強打者、ヤンキースのジャッジと比較されることが多かった。ブラスト値を比較すると、大谷の223スイングに対し、ジャッジは203スイング。全スイングの割合で言うと、ジャッジは18%で、大谷は17.8%だった。 大谷とジャッジのスイングは同じくらいだということは言える。ブラストの数値もとても似ている。スイング解析で見てみると、大谷は典型的なアッパーカットスイングで、ジャッジはさらにスティープ(バットのヘッドが立った状態でスイングに入る)の傾向が強い。大谷は典型的な長距離打者のスタイルで、どの球種も的確にコンタクトする柔軟性がある。だから驚異的なパワーを保ちつつ、確実性も高めることができる。 ―どちらが強打者かという議論も出た。 答えるのは難しいね。トータルの選手として見た場合は大谷だろう。でも打者というくくりで見ると、ジャッジが60本塁打ペースで打っていた時はジャッジと答えただろうし、「50本塁打、50盗塁」を達成した時は大谷と答えた。日によって変わるくらい決めるのが難しいね。