【出生数過去最低の衝撃】「人口8000万人社会」実現に必要な合計特殊出生率は?「人口ビジョン2100」を考える
若者に必要なライフプランニング
人口減少を抑制することに関しては、こども家庭庁の設置、「こども未来戦略方針」の策定によって、さまざまな手立てで出生率の回復を目指している。しかし多くの施策は出産から大学等への進学までのライフステージを支えるにとどまっている。思春期から結婚に至るまでの若者への支援は、所得の向上と雇用の改善までだ。この点で、人口ビジョン2100には耳を傾けるべき提案が示されている。 その一つは「プレコンセプションケア」である。著しい晩婚化の結果、希望する子ども数を満たせなくなっている。その背景には不十分な所得や不安定な雇用、高学歴化やワーク・ライフ・バランスの問題などがある。
また、年齢とともに妊孕性(にんようせい)が低下して、妊娠しにくくなる事実を理解していない若者も少なくないという事実はないだろうか。漠然と、長寿化したので結婚は遅くても構わないと考えているのかもしれない。 所得や雇用は必須の条件である。それとともに次世代を担う若者自身の認識や主体性に働きかける必要がある。思春期から性や妊娠に関する知識を身につけて、自身のライフプランのなかで結婚や出産のタイミングを計画することが必要なのではないか。 結婚を望む若者に対して出会いの場を提供する企画は多くの自治体で行われているが、それでは遅い。もっと早い時期から、自分の人生について考える場を提供するのが望ましい。 2022年度から高等学校で金融教育を行うことが義務とされた。その中ではライフプランニングと金融の関係を学ぶことになっている。これに結婚、出産、育児、介護などに関わる人口に関わる内容も組み合わせて、より広い内容のライフデザイン教育を行なってはどうだろうか。
少子化対策は子を持つ親のためだけではない
人口ビジョン2100におけるもう一つの重要な指摘は、国民の意識共有と、2100年を視野においた、総合的、長期的な「国家ビジョン」の策定・推進を掲げていることである。 少子化対策の資金源をめぐって論争が続いている。政府の「実質的な負担は生じさせない」という説明が国民を納得させていない。「朝三暮四」のような説明をする政府に対して信頼感がないからだ。しかしそれだけではないだろう。国民の意識にも不十分な部分がある。 少子化対策の恩恵を受けるのは、子どもと子育て真っ最中の人だけと理解してはいないだろうか。出生率を回復させ人口を安定させることは、労働力の供給、年金制度や介護保険制度の安定にとって必要な要件である。 誰もが生まれてから死ぬまでの一生の間、それぞれのライフステージで何らかの公的な支援を受けているのだ。元気な働き盛りのうちは負担を担い、子ども、子育て、老後の期間においては支援を受けるという連帯の意識、お互い様という意識が希薄なことも問題だ。 持続可能な社会の実現には、地域や社会の世代間継承が必要である。そのためには人口が維持されなければならない。子育てにおいては、母親だけでなく、父親、家族、地域、社会が連帯する「共同養育社会」の実現が求められている。