裁判官インサイダー、出向後は担当のTOB関連企業が中心に…株取引の規定なく「不正は想定外」
金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー取引疑惑で、裁判官が出向前後で取引銘柄を一変させていたことがわかった。出向前は有名企業が中心だったが、出向後は、同庁が未公表情報を基に審査している企業に狙いを絞っていたという。同庁や東京証券取引所といった「市場の監視役」にも不正取引疑惑が発覚する前代未聞の事態に、市場関係者らからは早期の原因究明や再発防止を求める声が出ている。(落合宏美)
裁判官は30歳代男性で、今年4月に最高裁事務総局から同庁へ出向し、株式公開買い付け(TOB)を予定する企業の書類審査などを担当する企画市場局企業開示課に配属された。
関係者によると、裁判官は出向前までは有名企業の株を中心に日常的に取引を行っていたが、出向後は、同課が扱うTOB関連の企業に取引対象を変更。自身が担当する企業だけでなく、部署内で共有されるTOB予定企業の一覧を基に、未公表情報を得て不正を繰り返していた疑いもある。
裁判官は出向直後から徐々に取引額を増やし、4月に10万円程度だった利益は、8月に100万円超に増え、総額では数百万円規模に上ったとされる。裁判官は証券取引等監視委員会が8月に調査に着手する直前まで未公表情報に基づく取引を続けていたとみられる。監視委は9月に裁判官の関係先を強制調査しており、東京地検特捜部への刑事告発を視野に調べを進めている。
最高裁などによると、裁判官の株取引を禁じる明文規定はなく、近年は株取引を行う若手も珍しくないという。
裁判には、上場企業に絡む特許侵害訴訟や合併・買収(M&A)を巡る争いなど司法判断が株価に影響を与えるケースがある。裁判官自身が判断を示す前にこれらの企業の株を取引し、利益を得ることも可能ではある。ただ、「裁判官が不正を疑われるような株取引を行う事態は全くの想定外」(最高裁関係者)で、株取引を制限するルールも議論されてこなかったという。あるベテラン裁判官は今回の疑惑を「驚きを通り越してあきれるしかない。事実だとすれば過去に例のない不祥事だ」と話す。