「ホスピタリティー」が回復に欠かせないのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】
【正解のリハビリ、最善の介護】#52 「先生、入院中は毎朝若い看護師さんが手を握りに来てくれるんだよ。そりゃうれしいし、元気になるよ」 整形外科医が教える体メンテナンス(4)高齢者も筋トレとプロテインを いまは回復して復職された83歳の患者さんが笑顔で口にされていました。毎朝、血圧と脈拍、不整脈の有無を確認する看護について話されたほほ笑ましい一言です。 またある時、高名で大きな総合病院の院長先生が看護部長さんと一緒に当院に見学に来られました。その際、院長先生が看護部長さんに、「この病院、なんか居心地いいよね。なんでなんだろうね」と言われました。看護部長さんも、笑顔で「はい。なんか空間が気持ちいいです。明るくてきれいで、スタッフの笑顔と挨拶も気持ちいいです」と答えていました。 私たちの大泉学園複合施設は、回復期リハビリ病院の「ねりま健育会病院」と、超強化型老健である「ライフサポートねりま」の2つの機能があり、2017年に新設しました。開院時からの大きな2本の柱は「人間回復の医療介護」と「ホスピタリティー」です。 人間回復の医療介護についてはこれまでたくさんお話ししてきました。正解のリハビリと最善の介護の実践です。今回はBPSD(認知症の患者さんにみられる精神症状・行動症状)の際に特に試されるホスピタリティーについてお話しします。 ホスピタリティーとは、簡単に言うと、患者さんに対する思いやりであり、心遣いであり、親切な心であり、誠実な心であり、心からのおもてなしです。患者さんを回復させるための「目配り、気配り、思いやり」です。その基本には、常に「公平、公正、誠実、親切な心」が必要です。 つまり、ホスピタリティーとは“関わり方”そのものなのです。そして大切なのは、患者さん、ご家族、私たちがともに喜びを共有して、相互満足の状態をつくることです。著書「患者の心がけ 早く治る人は何が違う?」(光文社新書)にも詳しく記しました。 私たち医療介護従事者の喜びは、リハビリ治療やリハビリ介護により、障害で苦しむ患者さんが回復して社会参加できるようになること、また、問題行動を起こす患者さんが改善されて、穏やかにご家族と生活を送れるようになることです。患者さんやご家族から改善を感謝されると、とてもうれしく感じ、やりがいが湧き、胸を張れます。 しかし、その治療や寄り添いの実践の過程は、体力的にも精神的にも大変な苦労を伴います。特に、認知症や高次脳機能障害によるBPSDが強いケースは大変です。大声、暴言、介護時の暴力は非常に困りますし、他の患者さんにも迷惑をかけ、職員がケガをすることもあります。 このため、患者さんの気分を良くするような声掛けや寄り添い方が大切で、そのタイミングがポイントになります。尿便失禁時の弄便や異食の対応も大変ですが、清潔と健康を保てるように優しさを持って、笑顔で対応します。せん妄・幻覚・錯覚により徘徊され、毎晩帰宅願望が強く、睡眠障害となる時も困ります。 特に夕暮れに不穏になる「夕暮れ症候群」は薬剤治療が可能なので、患者さんが興奮期に入らないように薬剤管理しつつ、少しおだてる声掛けや気分転換になる寄り添い歩きを行い、怒りやソワソワを和らげます。 BPSDに対しては、関わり方と環境調整、さらに薬剤治療の3つのアプローチで、迅速に問題行動を治療します。症状が改善しないと、職員が日に日に疲弊します。その上、患者さんは改善せず、ご家族からは「悪くなってるんじゃないの。どうしてくれるんだ」とクレームが入る場合もあります。これではホスピタリティーに必要な「相互満足」が成立しません。 治療が難しい時に、それを共感できないご家族はとても困ります。その疲弊期間が2週間以上続く場合は、他の専門病院での転院治療をお願いする判断が必要だと考えます。 また、患者さんによる夜間の卑猥な言動や、スタッフの体を触るなどのセクシュアルハラスメントも発生します。これは認知症が重症な患者さんでは見られず、ごく軽症の方に起こります。このため、迅速に患者さんにセクハラの中止をお願いします。そして、セクハラせずに一日も早く回復して、自宅退院を目指す協力を約束してもらいます。それでもセクハラが収まらない時はご家族に現状をお話しして、セクハラをやめないと治療や介護が継続できずに退院や退所になることを説明し、一緒に解決します。 行為が長引くと増悪しますので、迅速な毅然とした対応が必要です。中には、早く自宅退院したいために意図的にセクハラを続ける患者さんもおられます。このため、ご家族の協力が必須になります。 こうしたホスピタリティーあふれる私たちの人間回復の医療介護が、地域住民の皆さんに信頼されること自体が地域貢献になると信じています。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)