フリーアナウンサー・神田愛花『東大卒新人マネージャーと、アントニオ愛花』
フリーアナウンサー専門の芸能事務所、セント・フォース。私はNHKを退局した3ヵ月後に所属し、もう12年間お世話になっている。その間、数名の男性マネージャーが担当になったが、現在毎日現場に来ているのは、この4月に入社したばかりの、私にとって初の女性マネージャーだ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~57回)はこちら 彼女は少し変わった経歴を持つ。関西で生まれ育ち、年1回くらいのペースで家族や友人と東京ディズニーランドに遊びに行っていた。いつしか「夢の国に入り浸りたい!」と思うようになり、高校1年生の時、ご両親に「ディズニーランドの年間パスポートが欲しい!」とお願いをした。だが、関西からでは交通費がかかってしまい、なかなか元が取れない。そこでご両親は、「じゃあ東京に住まなきゃ。そのためには東京の大学に合格しないと」と言ったそうだ。 「よぉし!」と意気込む彼女。だが、東京の大学ならどこでもいいというわけではなかった。一人暮らしをするので、学費を抑えるためには国公立大学が望ましい。かつ、どこに行くにも移動費が安く済む、交通の便のいい場所にある大学が最良だった。それらの条件を満たすベストな存在は、東京大学だと判断。そして見事、東大に合格したのだ。 約束通り年間パスをゲットし、ダンスサークルの代表としても快活に過ごしていた大学3年生の時、「サークルの知名度を上げたい!」と、東京大学ミスコンテストに出場することに。すると準ミスに選ばれ、セント・フォースから学生フリーアナウンサーとしてスカウトを受けた。もともとマスコミの仕事に興味があったので、勉強がてら芸能活動をスタート。だがそこで、自分が異常に緊張してしまう人間だということに気がついた。 せっかくヘアメイクさんが綺麗に塗ってくれた口紅を、緊張のあまり、本番前にベロベロと舌で拭ってしまうのだ。何度塗ってもらっても、どうしてもそうなってしまう。他の子たちが完璧な口元で積極的に喋っているのを見て、「私は出演者には向いていない。ならばもっと勉強してマネージャーになろう!」と決意。東大大学院に進み、『タレントとは?』を研究テーマに、さらに勉学に励むのと同時に、セント・フォースでマネージャーのインターンを経験。そして、正式なマネージャーとして私の担当になった。 現代っ子の女性だ。頭はいいかもしれないが、ハードスケジュールにすぐ弱音を吐いたり、重い荷物が持てなかったりするのではないか。そもそも20歳近く離れたオバサンとコミュニケーションがちゃんと取れるのか、心配だった。だが蓋を開けてみると、持ち前の記憶力とリサーチ力を活かしどんどん仕事を進めていくし、思ったことは臆さず言ってきた。 ◆新たな風を吹かせてくれる存在 さらに、女性特有の月1回の私の血祭りを察知して、おトイレに行くタイミングでサッと私の鞄からポーチを取り出し、「コレですよね?」と手渡してくれたことも。(これが女性マネージャーの醍醐味かぁ!)と、有り難い驚きがたくさんあったのだ。 NHKでは、周りに東大出身のテレビマンが大勢いた。頭がいいから、きっと私のことをバカに感じ、面倒くさそうに喋ってしまうのだろうと思っていた。それに、選ばれた人材だと自覚しているから、同じ東大出身のアナウンサーとばかり仕事をしたがるのだろうと思っていた。だが彼女のおかげで、私の中での”東大出身者”のイメージが、変わりつつある。 数日前、『ぽかぽか』で、私がアントニオ猪木さんに扮する機会があった。朝9時前から、カツラを被り、肌色の全身タイツを着て、黒いパンツを穿き、赤いタオルを首に巻きながら、楽屋の鏡の前で猪木さんの顔真似や動きを練習している私を、彼女は背筋をピンッと伸ばし、とても難しい参考書を読んでいるかのような目でジーッと見ていた。彼女はあの状況をどう捉え、何を思ったのだろうか。セント・フォースのマネージャーになったら、可愛い衣装を着てお天気を伝えたりするタレントの現場で活躍する自分を想像していたに違いない。だが現実は……目の前にいるこの全身タイツを着た44歳のオバサンが、あなたが抱えているタレントだ。その東大脳で、私をどう高みに導いてくれるのだろうか。楽しみにしているぞ! ★本連載をまとめた本人初の著書『王道っていう道、どこに通ってますか?』が大好評発売中! かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より 文・イラスト:神田愛花
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