高校女子ラグビー決勝に主将とトライゲッターが欠場 まさかの理由は…個人の選択を尊重する新時代のスポーツ
◇コラム「大友信彦のもっとラグビー」 高校女子ラグビーの全国大会「全国U―18女子セブンズ」が15~16日の2日間、熊谷ラグビー場で行われ、関東学院六浦(神奈川)が2年連続3度目の優勝を飾った。 女子ラグビーは高校生と日本代表の距離が近い。昨年までこの大会で活躍していた谷山三菜子(佐賀工→日体大)、丸山希香(アルカスユース→立正大)は今年のアジアシリーズで7人制日本代表デビュー。パリ五輪で活躍した平野優芽主将(ながとブルーエンジェルス)や原わか花、松田凜日(ともに東京山九フェニックス)は高校生で日本代表入りし、アジアシリーズやワールドシリーズで世界を転戦した。今年の高校3年にも、攻守に大活躍した大内田葉月(福岡レディース)や藤原郁(京都成章)ら近い将来日本代表入りしそうな逸材がそろっていた。 その大会で興味深いことがあった。優勝した関東学院六浦は、決勝トーナメントが行われた大会2日目を、定員12人に満たない10人で戦っていた。前日は12人いたのに。しかも欠場していたのは昨季の大会でMVPに輝いた主将の山本梨月と、初日に2トライをあげたWTB瀬戸萌仁加(ともに3年)という中軸の2人だ。ケガか? まさか感染症か? と心配したのだが…梅原洸監督に聞くと、答えは「受験なんです」。大会日程が例年より2週間遅れ、某私大の推薦入試と重なってしまったのだという。 「本人たちも悩んだのですが、みんな『大丈夫だよ、行ってきなよ』という感じで。僕らの学生時代だったら考えにくいけど」と梅原監督は笑った。 関東学院六浦は準決勝で追手門学院(大阪)を31―10、決勝では京都成章(京都)を14―5で破り、みごと優勝。そして表彰式が終わっておよそ1時間、受験を終えた2人が制服姿のまま、仲間が待つ熊谷ラグビー場へ駆けつけた。選手たちと抱き合い、写真を撮りあった。 「悩んだけど、仲間が『大丈夫だよ』と言ってくれたし、大学で過ごす4年間を優先して受験にいきました。10人でも絶対勝ってくれるだけ練習してきたという自信はあった。でも試験中は、試合が気になって集中できなかった」と山本は苦笑い。その分、第1日の1~2回戦は「1日だけでも出してくれた仲間に感謝しています。高校最後の大会なので思い切りやりました」と言った。 世界に近いハイレベルの大会であっても、気負いなく個人の選択を尊重する。そんなチームのスタンスに、多様性を尊重する新時代のスポーツの在り方を見た気がした。 ▼大友信彦 スポーツライター、1987年から東京中日スポーツ・中日スポーツでラグビーを担当。W杯は91年の第2回大会から8大会連続取材中。著書に「エディー・ジョーンズの監督学」「釜石の夢~被災地でワールドカップを」「オールブラックスが強い理由」「勇気と献身」など。
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