「リトゥンアフターワーズ」山縣良和の個展がアーツ前橋で開催 装いを通じた社会との対話
第4章 変容する日常 「第4章 変容する日常」は、広いスペースに誰かが使い古した家財道具と、ショーで使用した大きな地球のオブジェが並ぶ。古いテレビゲーム、浜辺で使われたのであろうパラソル。昭和を連想するレトロなそれらの多くはプラスチック製かつ丁寧に汚れを落とされている故カラフルな色が際立つ。日常生活の道具ばかりだが、人が介在せず、洗濯機も音を立てて勝手に回り続けているだけに、逆に非日常性が浮かび上がってくるようだ。「ウクライナやガザでは街が日々現在進行形で破壊され続けているし、日本でも新年早々に能登半島地震が起きてたくさんの人々が避難生活を送っている。現実の僕らの世界だっていつ崩れてしまうかわからない。すでに“非日常のなかの日常”なんじゃないか」と山縣は言う。
第5章 ここに いても いい 最後の部屋「ここに いても いい」は様相がガラリと変わり、優しさと温もりだけが存在している空間だ。昨年子供が生まれた山縣の私生活の今が色濃く反映されている。展示の内容やその方法の選択にはかなり迷いもあったという。「今までの作品では少なからず、現代の社会問題や歴史に向き合って作ってきたけど、今はちょっとそういう社会問題に以前のようにうまく自分の心が接続できなくなりました。目の前のことでもう一杯一杯な自分がいて、ただただ目の前のやるべきことに向き合いながら日々を過ごしている中で、今の僕には目の前にあるパーソナルな出来事や風景からしかリアルな作品を作れないという結論に至った」と、告白するかのように言葉を紡いでいる。
自身のスマートフォンで撮影した動画からは子どもの笑い声がずっと流れている。「新しい世代と共にこれからのファッション表現の可能性についてじっくりと向き合い、新たな物語を綴っていければ」とポジティブな表現でこの展示を締め括った。
▪️「リトゥンアフターワーズ ここに いても いい~山縣良和と綴るファッション表現のかすかな糸口」展
会期:2024年4月27日~6月16日 開館時間:午前10時~午後6時 休館日:水曜日 会場:アーツ前橋 住所:群馬県前橋市千代田町5-1-16