「実は、簡単に人を信じてしまう性格なんです」気鋭の俳優・蒔田彩珠が語る、正反対の役を演じる難しさ
富裕層が暮らし、秩序が保たれた高級住宅街を舞台にした、佐野広実さんによるミステリー小説『誰かがこの町で』。住民同士の忖度と同調圧力が暴走した悲劇を描いた作品だ。読み手に「これは私の話かもしれない」と思わせるリアリティでたちまちベストセラーに。その待望の映像化作品が2024年12月8日に放送・配信が始まっている『連続ドラマW 誰かがこの町で』(WOWOW)だ。本作でヒロイン・望月麻希を演じたのは、気鋭の俳優・蒔田彩珠さん。 【写真】シックなジャケット姿の江口洋介がカッコよすぎる… 江口洋介さん演じる真崎雄一は、過去に仕事も家族も失い、現在は法律事務所で調査員として働いている。そんな真崎の元に、蒔田さん演じる望月麻希が「自分が生まれた直後に失踪した両親の行方を調べてほしい」と依頼するところから物語は動き始める。行方を追い、19年前の一家失踪事件の真相について調べるうちに、二人は「相棒」のような関係になっていく。 「初めて脚本を読んだ時、感情を揺さぶられる怖さがあった」と語る蒔田さんに、作品について、作品で克明に描かれる同調圧力について伺った。 取材・文/前川亜紀
江口洋介さんとの連続共演
――江口さんとは、世界的ヒット作『忍びの家 House of Ninjas』(2024年Netflix)から連続の共演となりました。 これほど早く共演の機会があるとは思っておらず、とても楽しみにしていました。前作はアクションあり、笑いありの明るい役でしたが、今回は共に心に傷を負いながら「一つの真実」を求める役です。 親子でも友人でもない微妙な距離感で、お互いの立場も考え方も異なるから反発し合う。他人だから基本は無関心なのに、一応“仲間”だから、放っておけない……そんな距離感で、一家失踪事件の核心に迫っていきます。 役に真っ直ぐに入っていく江口さんほか、共演者の皆さんと一つの作品を作れたことは、とても楽しく、学びが多い毎日でした。
小さな手がかりから、役を掴んでいった
――蒔田さん演じる望月麻希は、天涯孤独で頼れる身内がいない中、19歳まで生きてきたという女性です。 初めて脚本を読んだとき、事件の謎を推理する面白さの裏側に、登場人物たちの葛藤が描かれていました。常に「あなたならどうする?」と問いかけられているような気持ちになり、夢中で読みすすめました。感情を揺さぶられる怖さもあって、魅力的な作品だと感じたのです。 私が演じる麻希は、0歳のときに孤児院に預けられ、全く身内がいないまま、18歳まで生きてきた女性です。 この、家族も身内も誰もいないという感覚が自分の中にはなく、麻希はどういう気持ちで生きてきたのか、彼女の心を想像しながら役を固めていきました。 アイデンティティや考え方の形成には、やはり親の影響が大きいと思うことは多いです。これまで演じた役は、家族や友人がいる役柄がほとんどでしたが、麻希にはそのような縁者も、周囲に信頼できる人もいません。 手がかりがない中、微かなイメージを掴みつつ、麻希の人間像を深掘りしていきました。彼女は途方もない孤独を抱えているから、人を簡単に信じないでしょうし、相手の目を見て話さないかもしれない。そうした小さな手がかりから理解を深めていきました。 そんな麻希の人物像が私の中で固まったのは、初めて衣装を着たときです。ファッションやネイル、メイクなどについては、事前に監督と話し合い、意見を交換していました。しかし実際に身に纏うと、「麻希はこういう人だ」というイメージがすっと入ってきました。やはり、ビジュアルの力は強いと思います。 最初に撮影したのは、江口さん演じる真崎雄一と出会う喫茶店のシーンです。真崎は法律事務所の調査員として依頼を受けて、麻希の両親の行方を調べている。そして自分の過去を知りたい麻希の思いが重なり、ふたりは“相棒”という関係になります。そのシーンから撮影が始まったこともあり、自然に作品に入ることができました。 真崎は彼女が初めて出会った、「自分のことを知っている人」。お互いにわずかな手がかりから、真実を求めるのですが、複雑だからなかなかたどりつかない。多くの伏線があることも、本作の魅力です。