阪神大震災きっかけに開発、タイヤで培ったゴムの技術生かした制震装置普及…能登半島地震では全半壊なし
1995年の阪神大震災をきっかけに誕生した住友ゴム工業の制震装置を採用した木造戸建て住宅が、全国で増えている。装置はレース用タイヤで培ったゴムの配合技術を生かし、地震による揺れを最大95%吸収する性能を実現した。取り付けた約10万棟のうち、全半壊に至ったケースは1棟もないといい、評価を高めている。(仁木翔大)
6日、京都大宇治キャンパス(京都府宇治市)で、1月の能登半島地震の揺れを再現する実験が行われた。震度6強相当の揺れが10回繰り返されたが、住友ゴムの制震装置を設置した住宅は、傾いたり損傷したりすることはなかった。
装置は、アルファベットのAのような構造で、頂点部分に特殊なゴムが取り付けてあり、壁を支える柱に筋交いのように設置すると、振動によって生じる運動エネルギーを熱エネルギーに変換して、振動を抑える仕組みだ。
住友ゴムは、阪神大震災で神戸市の自社工場が被災したことを受け、橋梁(きょうりょう)向けだった装置を住宅向けに応用する研究開発を始めた。
レース用タイヤは走行性能を高めるため、高速で曲がる際に、横向きにかかる力の一部を熱エネルギーに変換して滑りにくくするといった技術が採用されている。住友ゴムはこうした技術を応用し、揺れを抑える性能を実現した。
2012年に、地域の工務店向けに新築住宅用として発売。大地震が起きるたびに注文が増え、現在、取り扱う工務店は33都府県に広がる。
能登半島地震では8000棟を超える家屋が全壊したが、震度6弱以上のエリアで、この装置を設置した517棟は、全半壊がゼロで、被災直後から在宅避難に利用できた住宅も多かったという。
全国の工務店でつくる日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(東京)によると、1981~2000年の耐震基準で建設された一般的な木造住宅のうち、震度6強クラスの地震で耐震性が不足するものは86・2%に上る。南海トラフ地震などに備え、耐震や制震装置などを組み合わせた対策が急務となっている。
京都美術工芸大の竹脇出学長(建築構造学)は「住友ゴムの装置は比較的設置費用が安く抑えられるうえ性能も高く、地震への備えとして有効だ」と指摘する。