石破茂首相に「一言申し述べたい」…!所信表明演説で引用した「石橋湛山の言葉」を歓迎し、二度と「就職氷河期」を繰りかえさないために「肝心なこと」を提言します
石橋が抵抗した「軍国主義」、「反市場主義」
もちろん、これは当時の政策である。 戦前の映画を見れば生活道路は土のままで舗装されていないことが分かる。石橋が必要としたものの多くは、現在は改善されているのだから、私はいま公共事業を大規模に起こす必要があるとは思っていない。 現在の財政拡大は減税によって行われるべきだろう。手取りを増やすと言った国民民主党が議席を4倍に増やしたのも、税金を取って配るより、そもそも税金を減らすべきだと思う国民が多かったことを示している。 石橋が当時、金融財政両面での景気拡大策を唱えたのは、恐慌がもたらした軍国主義、反市場主義、反資本主義、反自由主義への風潮に対抗するためでもあった。 「帝国の軍人が私に党を結び白昼帝都の諸所を襲撃し、あまつさえ首相を射殺せり(1932年の5.15事件のこと)とは、近代の文明国家においては未聞の現象であろう。……(その理由の一つは)最近の極端なる不景気だ。軍人だけのことではない。国民全体が意気阻喪と不平の鬱憤に正気を失わんとしているのだ」とも書いている。
石破首相に考えてほしい「マクロ政策と不況」の関係
もちろん、現在の日本が1930年代の状況にあると言えば大げさだが、1990年代からリーマンショック後の2010年頃まで続いた就職氷河期、雇用の停滞、企業利益の停滞が、国民や企業の意気阻喪や不平の鬱憤をもたらしたことは間違いないだろう。 財政金融両面から、このような時代を繰り返さないことが重要だ。 幸いなことに、アベノミクスに批判的だった石破氏も、首相になってからは考えを変えたようだ。 2024年10月2日の所信表明演説では、キシダノミクスを継承すると述べた。キシダノミクスとはアベノミクス+所得再分配政策(ほとんど実態はないが)と言って良いので、財政金融政策でアベノミクスを継承すると言っているのと変わらない。 さらに、石破首相は、10月15日の福島県いわき市での総選挙の第一声で、13兆円を上回る規模の補正予算を組むと述べた。そう発言すれば、自民党が選挙に勝てると思い込んでいたからだという。 願わくば、石破首相には、石橋湛山にならい、一党派の勝利ではなく、国民の不満の発出を抑え、意気を高め、人々を豊かにするのがマクロの財政政策の役割だという認識で国政の舵取りをしていただきたい。 それは金融政策においても同じである。2012年以降の大規模緩和によって、それ以前の就職氷河期が起きなくなったことを教訓としていただきたい。 さらに連載記事『国民無視の「年収の壁」には、もううんざり…!厚労省の「悪手」と財務省の「経済音痴」で野ざらしにされるこの問題に、私が一石を投じます!』でも、昨今の経済政策を解説しているので、参考としてほしい。
原田 泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授 元日本銀行政策委員会審議委員)