文化財として再現へ、西陣織の「裂」紡ぐ…手機職人・廣瀬純一さん
賢治と付き合いのあった表装裂製作の保存団体「文化財修理表装裂継承協会」(京都市中京区)が、廣瀬のバックアップに動いた。先代が行ってきた業務や、技術的な相談などについての助言を今も続けている。
賢治は生前に取引先とのやり取りや、古代裂の復元の経過をノートに記録していた。廣瀬にとって何物にも代えがたい宝物で、日々それらを裂製作の参考として作業に向き合う。
国宝「早来迎」の表装
20年、「早来迎(はやらいごう)」の呼び名で知られる国宝「 阿弥陀二十五菩薩来迎図(あみだにじゅうごぼさつらいごうず)」(京都・知恩院蔵)の修理事業で、表装裂を担当することが決まった。作品の質感に合った裂にするため、あえて波打ちやすい特殊な織り方に挑んだ。織るときの力加減で裂の縮み方も変わるため、何度も試行錯誤を重ねた。
赤みがかった色味で蓮華唐草文があしらわれた裂は、約1年をかけて完成。「表装裂の図案や糸が自分の手元に届く頃には、9割方完成している状態。自分は組み立てるだけだが、素晴らしい裂になった」と笑う。
複雑な機織り機の調整など、学ばねばならない技術はまだ多い。「自分が携わった裂が文化財として長く引き継がれると思うと身が引き締まる。古代からの先人の知恵を吸収し、再現できるよう日々研究したい」
伝統を受け継ぐ覚悟は固まっている。(敬称略、夏井崇裕)