最先端の人工股関節手術を撮る : 「生命」や「身体」をテーマに撮り続けてきた写真家が、妻の手術に立ち会いフォトドキュメントで伝える
ロボティックアームによる手術支援の最新システム
手術がいよいよクライマックスに達すると、先進テクノロジーの手術支援ロボット「Mako(メイコー)」の登場だ。これは、執刀する医師の手をロボティックアームがサポートするもので、術前計画にない範囲の骨を削りそうになるとアームが制御をかける。 「このシステムを入れてから、手術の安心感が増した。卓越した医師の個人的な技量、いわゆる『神の手』に頼るのではなく、どの医師がやっても合格点がとれるようなチーム医療の構築にも役立つ」と松原医師は語る。
手術翌日からのリハビリテーション
骨の声を聴く
松原医師は、来年で70歳。今でも年間250件ほどの手術を手がけ、古希を迎えるとは信じがたいほど、アクティブで若々しい。かつては、考古学研究者を夢見たこともあったという。そして学生時代はサッカーに熱中していた青年が整形外科医になり、股関節ひとすじに最前線を歩んできた。 骨盤の臼蓋を「洞窟の穴」と見立てたら、松原医師はその穴をめがけてボールを蹴りこむストライカーのようだ、とふと思った。そして、身体の深奥で鳴り響く骨の声に耳を傾けることは、まさに考古学の遺跡発掘のロマンそのものではなかろうか。 「老いを見つめる」ことは「骨を見つめる」ことでもある。 写真と文=大西成明
【Profile】
大西 成明 写真家。1952年奈良県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。「生命」や「身体」をテーマにした写真を撮り続けている。写真集『象の耳』で日本写真協会新人賞(1992年)、『地球生物会議』ポスターでニューヨークADC賞ゴールドメダル(1997年)、雑誌連載『病院の時代:バラッド・オブ・ホスピタル』で講談社出版文化賞(2000年)、写真集『ロマンティック・リハビリテーション』で林忠彦賞、早稲田ジャーナリズム大賞(2008年)を受賞。元東京造形大学デザイン学科教授。