「別の学校へは行きたくない!」...母親と再会した娘に襲い掛かるロシア政府の恐ろしい《怪物》
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第43回 『「もうすぐ拘置所へ送られる」...恐ろしいロシア政府から拘束された女性と離れ離れになった娘の《奇跡の再会》』より続く
突然の学校から除籍
しかしそれは大きな間違いだった。怪物は思いもよらぬ速さでわたしたちの生活を貪り食っていた。夜になって、アリーナが突然、地元の学校から除籍され、彼女の在学証明書類が謎のように消えたことがわかった。 警察は奇妙な命令を出し、モスクワの反対側にある父親の家に近い別の学校へアリーナを通わせようとしていた。 「別の学校へは行きたくない」 娘は泣いた。 「パパがまたわたしを捕まえて、携帯も取り上げてアパートに閉じ込めるんじゃないかと怖いの」 わたしは弁護士とともにアリーナを小学生時代から通っている元の学校に復学させようとしたが、その都度拒否された。ザフヴァトフ弁護士は教育局と検察に何度も不服申し立てをおこなったが、無駄だった。
こんなことは経験したことがない
「わからない」 わたしはザフヴァトフ弁護士に言った。 「なんで前の夫は自分の子供をいじめるんでしょう? どんな問題だって話し合いで解決できるのに、あの人は身を隠したまま話をしようともしない。何年かしてプーチン体制が崩壊して、個人崇拝の仮面が剥がれた時、大人になった娘は父親のところに行ってきくでしょうね。『パパ、なんでわたしやママのことをいじめたの? なんでわたしが外国へ出ることを禁止したの? なんでママと話そうとしなかったの? ママが勇気をもって戦争に反対していた時、パパは戦争を煽っていたわ……』って。これは彼にとって一番恐ろしい審判でしょうね。大人になった娘との対話は」 「あなたの身に起きていることは、まったく無茶苦茶なことです」 ザフヴァトフ弁護士はわたしと同じように憤慨していた。 「こんなことは弁護士人生で経験したことがありません。居住区の警備員はわたしがあなたの家にクルマで乗り付けることを禁止したんですよ。入口にクルマを停めて歩くしかありませんでした」
毎日のように拒絶の返事
「禁止したってどういうこと?だって管理費を払っているし、その一部は警備員の給料になってるわ」 わたしはいぶかしく思って聞いた。 問題は雪だるまのように膨れていった。ザフヴァトフ弁護士は不服申し立てと訴えをさまざまな機関に出し続け、クリスティーナも娘を元の学校に復学させようとしてくれた。しかし、その甲斐もなく、毎日拒絶の返事を受け取っていた。そのうちに、当局はクリスティーナにも照準を合わせた。 『「消えたビデオ配信」...「完全に無視された」女性記者が裁判で目の当たりにしたロシア政府の《深すぎる闇》』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ
【関連記事】
- 【つづきを読む】「消えたビデオ配信」...「完全に無視された」女性記者が裁判で目の当たりにしたロシア政府の《深すぎる闇》
- 【前回の記事を読む】「もうすぐ拘置所へ送られる」...恐ろしいロシア政府に拘束された女性と離れ離れになった娘の《奇跡の再会》
- ウクライナ戦争を伝えるロシア政府系のニュースで「あなたたちは騙されている」と乱入した女性…その時、一体何が起きていたのか「本人が直接告白」
- 「北朝鮮へ逃げようかしら」...反戦派ジャーナリストがロシアから逃亡する「極秘計画」の驚くべき詳細
- 「野次馬」の撮った動画が“決定的証拠”に...ロシア反体制指導者・ナワリヌイが厳重警備の空港で買った“紅茶”に入っていたまさかのもの