平成事件史:戦後最大の総会屋事件(7) 「第一勧銀」と大物総会屋 「呪縛」はなぜ断ち切れなかったのか
会食の名目は、食道がんの手術を受けて退院した木島の「全快祝い」だった。このためメンバーは木島が指名したという。会食が始まって約1時間、木島は宮崎と奥田に短く、こう伝えた。 「例の件、よろしく頼むよ」 宮崎は「わかりました」と言って約束し、奥田もこれに同調する趣旨でうなずいた。 これによって小池への融資打ち切りの方針は完全に覆されたのだ。宮崎と奥田という第一勧銀の経営トップ2人が、「総会屋」小池隆一に融資を約束した瞬間だった。 「吉兆会談」のあと、奥田は総務担当常務に「もう一度、練り直してもらいますかな」と指示し、担当役員は部下の総務部長らに説明した。 「宮崎さんと奥田さんが了承なさったので、審査部門とあらためて話をして、融資のやり方を考えなければならなくなった」 その結果、直接「第一勧銀」本体から融資するのではなく、系列ノンバンク「大和信用」を使った「う回融資」という案がまとまった。本体からは融資できない以上、系列を使うしかなかったのだ。 奥田は同行が実質的な債務保証をした上で、う回融資を行うものであることを認識した上で、「分かりました。総務の方できちんと管理してやって下さい」と述べ、実行に移すことを了承した。宮崎も同様に、総務部門から「う回融資」の方法について、段取りなどの報告を受け、「それで進めて下さい」と了承した。(冒頭陳述より) 会食から1カ月後、「う回融資」の段取りが整った10月上旬、第一勧銀の総務部長は小池を総務部に呼んでこう説明した。 「融資は、大和信用(系列ノンバンク)経由で対応することになりましたが、窓口は当行になります。この融資は、最終的には当行が責任を持つことになっているので、返済の方はよろしくお願いします」と述べ、小池は「分かりました。銀行さんには迷惑をかけません」と返答したという。 事実上、本体が保障するということだ。以後、翌年から4年間にわたり系列ノンバンクの「大和信用」から小池側に対する「う回融資」がはじまった。4年間の融資総額は「約200億円」に上り、第一勧銀からの直接融資を含めた総額は後に「約460億円」と判明した。
【関連記事】
- 平成事件史:戦後最大の総会屋事件(4) 突然の「自白会見」と内部告発した元社員の逮捕
- 「強制捜査を延期できないか」ー平成事件史:戦後最大の総会屋事件(5) “ガサ”めぐって起きていた水面下のトラブル
- 「総会屋事件の主任検事をやってもらうからな」平成事件史:戦後最大の総会屋事件(6) 「最強」捜査機関の実像
- 平成事件史:戦後最大の総会屋事件(8)第一勧銀元会長を取り調べていた特捜検事はなぜ東京拘置所に向かったのか 後輩に掛けた最後の言葉「中村くん、すまない」
- 「自宅には記者諸君がいるので返事不要」“政界のドン”金丸信の逮捕 着手前夜、特捜部長が「10分の待機」の裏でかけた電話 ~金丸脱税事件から30年(1)~