「無実の人が無罪になると限らない」2歳娘を虐待で死なせた罪で一審懲役12年の父親 これまで8件の無罪判決を獲得した弁護士 二審判決へのぞむ
■「無実の事件は調べるほど無罪の証拠が出てくると実感」
検察側が重視したのは、脳の中枢にある「脳幹」だった。解剖医が「脳幹が溶けていた」と記載していたことから、頭に強い力が加わったことで頭蓋内出血や脳幹が損傷し、その結果、心肺停止になったというのが検察の主張だ。 川﨑拓也弁護士:何が原因でこの子は心肺停止になったんですかっていうのが、分からないまま進んでいたんですよね。勉強しながらという感じだったので、その時は苦しかったですね。 初公判の直前、川崎弁護士が頼ったのが、揺さぶられっ子症候群が疑われた裁判で相次いで無罪を勝ち取っていた秋田弁護士だった。 秋田真志弁護士:本当に無実の事件は、調べれば調べるほど無罪の証拠が出てくるものなんやと。それを本当に実感している事件です。 弁護団は、保管されていた細胞組織を顕微鏡で検査。その結果、見つかったのが「心筋炎」だった。 秋田真志弁護士:『うっ』となって突然倒れて、うわっと吐いたという、まさに心不全、不整脈なんかで起こる、心臓から来ている時に起こる症状と、ピタッと一致しているわけです。 弁護側は、心筋炎などで「心肺停止」となり、低酸素状態で脆くなった脳の血管に、心拍が再開して血液が一気に流れ込み、頭蓋内で出血が起きたと主張。また脳幹が溶けていたとしても、人工呼吸器につながれていた患者に見られる症状で説明できると判断した。 今西貴大被告の日記より:朝、弁護士接見。今日はすげーことを教えてもらった。心筋炎。これが一番の、直接の原因らしい。 今西貴大被告の母:(今西被告の手紙を読み)おかんの顔見たら安心する。今日も来てくれていると思って元気が出てくる。ありがとう。心配かけてごめんな。 涙声で読み上げ、小刻みに震える手で大事そうに手紙を握ってた。
■懲役12年の実刑判決に涙した川崎弁護士
しかし、2021年3月、大阪地裁は、検察側医師の証言に説得力があり信用できるとして、懲役12年の実刑判決を言い渡した。 今西貴大被告の日記より:終わってる。もうどうでもいい、もうどうなってもいい。こんなやってもないことで、こんなことになるなんて…ありえへん。 川﨑拓也弁護士:やっぱりショックで。たまに記者会見の映像とか見たら、全然覇気がないですよね。顔、死んでるなみたいな。もう(刑事弁護を)やめた方がいいんじゃないかな、みたいな。そういう思いになった。思い出しても……ちょっと悔しかったですね…。 胸の内を語り、涙した川崎弁護士。 今西被告は控訴し、弁護団は広く支援を呼びかけることにした。 川﨑拓也弁護士:『無実』と『無罪』は違う概念で、本当の無実の人が無罪になるとは限らない。私の中でもじくじたる思いがあって、一審の段階でもっと突き詰めてやっていれば、もしかしたら結果が変わっていたかもしれない。 川﨑拓也弁護士:弁護士って基本的に嫌われ者じゃないですか。あるいは、悪い人の罪を軽くする仕事みたいな。無罪、無実を確信してる人がやっぱり自分の後ろにいるっていうのは、心強いですよね。 二審でも焦点となったのが、頭蓋内出血が心肺停止より先だったと言い切れるのかどうかでした。 川崎弁護士は、一審での後悔を胸に、検察側医師への反対尋問を自ら担当することにした。 川﨑拓也弁護士:先生の意見として、(出血は)心肺停止より前なのですか?後なのですか? 検察側医師:端的に言ったら、前でしょうね。 川﨑拓也弁護士:後ろの可能性はないということでいいですか? 検察側医師:あくまでも組織でしか見ていないから、分からないですよね。 川﨑拓也弁護士:もう一度だけお聞きします。先生が見られた組織初見の中で(出血は)心肺停止より前の可能性と後の可能性、両方ありえますよね? 検察官:異議があります。議論にわたっています。 川﨑拓也弁護士:聞いていることに答えられていないので、何回か聞いているだけです。 裁判長:異議は棄却します。 川﨑拓也弁護士:心肺停止より前の可能性もあるし、後ろの可能性もある。それが先生のご意見ではないんですか? 検察側医師:区別ができない部分があっても、おかしくはないと思います。 このやりとりについて、次のように振り返った。 川﨑拓也弁護士:あれは本来、秋田先生がやるべき反対尋問を『やらせてほしい』って言って、やったんで。もうめっちゃ緊張してて、吐きそうになってたんですけど、あれは自分の中でもうまくいったなと思うし、あそこが勝負だと思ってましたから。
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