美輪明宏「ぜひ知ってほしい日本の伝統色。鴇色、猩々緋、黄櫨染、煤竹色、水浅葱、錆桔梗…名前を追うだけでもゆかしい気持ちに」
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 11月号の書は「色」です 【美輪さんの書】漆黒で書かれた「色」の文字 * * * * * * * ◆日本の色彩文化の豊かさを知る 私は、舞台に立つときや雑誌などの撮影の際、くすんだ色の服は着ません。明るくきれいな色を身につけると、まわりの皆さんの気分が上がりますし、本人にも運が向いてきます。 2021年末発売の『婦人公論』(12/28、1/4号)では、感染症で皆さんが沈んだ気持ちになっている時期でしたので、生命力の象徴である緑色のショールをまといました。 真っ黒な草や花を見かけないのは、黒は死の色だから。ですから、できれば黒一色のファッションは避けたいもの。もし黒を着る場合は、ベルトやスカーフなどで色を少し加えるか、色のきれいな宝石をつけるようにしましょう。そうすれば黒のマイナスの力は打ち消され、お洒落でシックな色に変わります。 お手本は日本の文化。たとえば、日本が誇る漆芸の世界では、黒い漆に金蒔絵や螺鈿(らでん)を施したものです。そうやって黒を寿ぎの色に変えたのです。
せっかくですから、今回ぜひ知っていただきたいのが日本の伝統色です。日本の伝統色は渋い色も多いですが、植物を使った自然染料から生まれた色彩なので、味わい深い美しさがあります。 そして微妙に異なる色の一つ一つに、素敵な名前がついており、その数はゆうに1000を超えます。たとえば鴇色(ときいろ)、猩々緋(しょうじょうひ)、黄櫨染(こうろぜん)、煤竹色(すすたけいろ)、水浅葱(みずあさぎ)、錆桔梗(さびききょう)……美しい言葉が使われているので、色の名前を追うだけでも、ゆかしい気持ちになりませんか? 北原白秋が作詞した歌曲「城ヶ島の雨」には、「利休鼠(りきゅうねずみ)の雨が降る」というくだりがあります。これは利休好みの、緑色を帯びた灰色の雨が降る、ということです。 日本の色彩文化には、世界に誇れる豊かさがあります。伝統色の名前の由来などを記した本もあるようですし、ときにはそうした自国の文化に目を向け、美意識を磨いてはいかがでしょう。 ●今月の書「色」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏