【マンガで学ぶ相続手続き】検認ってどんな感じ?裁判所での当日の流れと、検認後の遺言書が無効になった事例を相続の専門家が詳しく解説
こんにちは。G1行政書士法人 代表の嶋田裕志です。相続・遺言専門の行政書士として10年以上、年間1000件を超えるご相談にお応えし、行政書士の範囲だけでなく、相続税や不動産など相続に関する幅広い知識をもって各専門家とともに相続手続きを代行しています。 【漫画と解説】ある日家族が亡くなった――せっかくの遺言書が無効になるケースとは? 突然ですが、皆さんは、身内の方を亡くされた経験はありますか? 亡くなった人が近しい関係であればあるほど、皆さんは「当事者」として死亡後の手続きに関わることになります。具体的には、その亡くなった瞬間から、通夜、葬儀、役所での手続きなど、とにかく時間に追われながらたくさんの手続きをしなければなりません。 悲しくて、寂しくて、つらくて、耐えがたい状況であっても、手続きは待ってくれません。特に死亡後すぐの手続きには期限があるものも多く、慣れない手続きで心身共に疲れてしまい、体調を崩してしまうという方もたくさんおられます。 ここでは、いざ皆さんが「当事者」になったときに困らず相続手続きができるよう、詳しく解説いたします。 今回は、手書きの遺言書があった際に行う検認手続きの当日の流れや、遺言書が無効だった場合についてお話しします。 自筆の遺言書が見つかった場合は、法務局で保管されていた場合を除き、必ず家庭裁判所で検認の手続きをしなければなりません。 そして、この検認が終わって初めて、遺言書を使って手続きが進められるようになるのです。 また、たとえ検認を無事に終えても、遺言書が「自筆」である以上、書き損じや記入漏れなどの可能性も十分にあります。 ここでは検認当日の流れ、遺言書に書かれている一般的な内容やよくある記入ミスなどについて、相続・遺言の専門家として実際に経験した内容を交えながらお伝えします。 ■■検認期日(検認当日)の流れ 検認は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをし、検認当日はその裁判所に赴くことになります。遠く離れたところに住んでいた場合でも、決められた日時に現地まで足を運ぶ必要があります。 相続人の参加は義務ではありません(任意です)。ただし、検認が行われる旨の案内は事前に相続人全員に対して郵送されていますので、どのような相続関係であっても ・遺言者が死亡したこと ・遺言書があったこと ・検認が行われること は知られることになります。 一方、検認を申立てた人(申立人)は必ず参加しなければなりません。なぜなら、申立ての時点では遺言書の原本は提出せず、検認期日に申立人がそれを持参する必要があるからです。 検認当日の具体的な流れは次の通りです。 【例:東京家庭裁判所の場合】 1.待合室に行く 裁判所から届く遺言書検認期日通知書には、検認の日時と場所、そして当日どこに行けばよいかの案内まで詳しく記載されています。それに従い、指定された裁判所の待合室に行きます。 2.出頭カードに名前を記載 待合室には検認事件ごとに出頭カードが置いてあります。そのなかで自分が関係する検認の「遺言書検認用 出頭カード」を選び、名前を記載して受付します。 3.審判廷(部屋)へ移動 時間になると書記官が待合室に呼びにこられますので、参加した人全員が一緒に審判廷へ移動します。 4.検認 審判廷はいわゆる「法廷」をイメージしていただければ概ねその通りです。 前方には大きな裁判官の机があり、その前には向かい合う形でテーブルと椅子があり、参加者はそこに座ります。そして、申立人が書記官に遺言書の原本を手渡します。 裁判官が入室されると、いよいよ検認が始まります。封筒にハサミが入り、遺言書が封筒から取り出され、裁判官が確認します。 検認は、遺言書が故人のものかどうかを確認すること、また遺言書の状態を記録することに重点を置いています。そのため、一言一句を読み上げたり、法律で定められた遺言書の形式に沿っているかを確認したりすることはありません。 その後、書記官が遺言書を参加者の手元まで持ってきて、「筆跡と印影は遺言者のものですか?」といった質問をします。確定的な回答はできないかもしれませんが、「おそらく」といった回答でも問題ありません。 これで検認は終わりで、裁判官が退室され、書記官の案内で待合室に戻ります。審判廷に入ってから終わるまでの時間は実質5~10分程度です。 5.検認済証明書をもらう 検認が正式に終わったことの証明として、検認済証明書という書類を受け取ります。発行には遺言書1通につき150円の収入印紙が必要になりますので、書記官の案内に従って印紙を購入し、申請書という用紙に署名捺印して申請します。 検認済証明書は遺言書の原本と合綴され、裁判所の印鑑で割印された状態で受け取ります。 以上で検認当日は終わりです。受け取った遺言書は今後の相続手続きで使用しますので、紛失しないように気をつけましょう。 なお、検認の途中で遺言書の内容をじっくり確認する時間はありません。検認が終わったあとに参加者全員で確認したり、コピーを取ってそれぞれ持ち帰ったりしましょう。 検認を欠席した人は、参加者に連絡しない限り遺言書の内容を知ることはできません。しかし、参加者の連絡先がわからない、参加者とは連絡を取りたくないということもあると思います。そういった場合は、家庭裁判所に「検認調書」という書類を請求することで、遺言書のコピーを受け取ることができます。 ■■遺言(いごん)と遺書(いしょ)の違いとは? まず大前提として、言葉の意味を整理しておきますと、 ・遺言:自分の死後に法的効力を発生させることを目的とした「意思表示」 ・遺書:法的効力の有無ではなく、家族や友人への感謝の気持ち等を綴った手紙 という違いがあります。 つまり、遺言の内容は、自分の残した財産を「誰に」「何を」「どれだけ」譲り渡すかということが一般的であり、それを民法で定められた方式に従って書き記した書面が「遺言書」です。 ただし、遺言書に家族や友人への想いなどを記載するとそれ自体が無効になってしまうわけではなく、自由に書いても全く問題ありません(その部分に関しては法的な効力が生じないだけです)。 また、財産の行方(誰に、何を)について正しく記載されていた場合でも、必ずしもそれがすべての財産を網羅しているとは限らない点には注意が必要です。 というもの、体調が優れず、体力的にもギリギリの状態で遺言書を書いたのであれば、内容は必要最低限のことだけかもしれません。もしまだ元気なうちに遺言書を書いたのであれば、書いた時点と死亡した時点での財産状況に変化が生じているかもしれません。遺言書の内容を確認する際は「これがすべてではないかもしれない」という目線でいることも大切です。 ■検認済の遺言書を持って、いざ銀行の手続きへ 遺言書の検認を終え、検認済証明書を受け取ったら、早速手続きに進みましょう。まずは、ほとんどの人に関係するであろう銀行口座の相続手続きについて説明します。 遺言書で銀行の預貯金を譲り受ける人が指定されていた場合、その銀行の手続きをするのは遺言書で指定された譲受人です。銀行によってはほかの相続人が来店した場合でも必要書類の案内などをしてくれるかもしれませんが、あくまでも書類の橋渡しだけで、実際に署名捺印したり、その銀行の預金口座にあるお金の払い戻しを受けたりするのは譲受人の口座になります。 ただし、遺言書の中で「遺言執行者」が指定されていた場合は別です。遺言執行者とは遺言書の内容を実現する人で、遺言者から直々に指名(指定)されたとても重要な役割を担う人です。 遺言書の効力が発生している時点では遺言者はすでに他界しています。つまり、遺言書の内容が間違いなく実現されたのか、遺言者自身は確認することができません。それを代わりに行う(実現させる)のが遺言執行者の役割です。 ですので、もし遺言書の中で遺言執行者が指定されていた場合は、銀行の手続きをするのも遺言執行者になり、その人が責任をもって手続きを行い、遺言書で指定された譲受人に財産を引き渡すことになります。 なお、これは遺言執行者に限らず誰にでも言えることですが、銀行へ相続手続きをしに行く際は、必ず事前に支店に連絡し、予約を取ってから行くと待ち時間も少なくなります。また、必要書類も前もって電話で確認しておくと、現地でのやり取りがよりスムーズです。 ■■遺言書は「絶対」ではない!遺言書が“無効”になるケース よく、検認が済んだ遺言書は“すべて”有効であると思われがちですが、それは大きな間違いです。 検認の目的は、相続人に遺言書の存在を通知し、遺言書の内容を明確にして偽造や変造を防止することであり、決して遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。 そのため、検認が済んだ遺言書であっても、遺言書としての要件を満たしていなかったり、書き方に不備があったり、そもそも書いている内容が民法で定める項目に該当しない場合は無効となり、その遺言を使って手続きを進めることができません。 自分たちでは有効だと思っていても、その遺言書を見て実際に手続きや処理をするのは各手続き先(銀行、法務局など)であるため、A銀行ではできたのにB銀行ではできなかったということも起こり得ます。 ここでは、実際に数々の自筆の遺言書を見てきた私が経験した「遺言書が無効と判断された事例」をご紹介します。 1. 要件に不備がある 自筆の遺言書の要件として ・全文自書(財産目録を除く) ・日付を記載 ・氏名を記載 ・押印する という4点があり、このうち1点でも要件に不備があれば、遺言書としては“無効”と判断されます。 (NG例)遺言書の日付が「平成30年6月」までの記載で、日付が明確ではなかったものについて、無効と判断されました。 2. 連名で記載している 当然ですが、遺言書は自分のことについて書かなければならず、自分以外の人のことについて書くことはできません。遺言書の中に記載するのは自分のことのみです。 (NG例)子どものいない夫婦が「自分の死後、全財産を妻(夫)に相続させる」と1つの遺言書の中でお互いに向けて書いたものについて、無効と判断されました。 3. 訂正の方式に不備がある 全文自書しようとすると、どうしても書き間違いをしてしまうこともあります。その場合は訂正方法が定められており、修正テープや塗りつぶすような訂正では無効になってしまいます。書き損じをした場合は、改めて一から書き直すか、正しく訂正しましょう。 (NG例)銀行の口座番号の一部に書き間違いがあり、黒のボールペンで塗りつぶしてその横に書き直しているものについて、無効と判断されました。 自筆の遺言書は手軽に作成できる反面、公正証書遺言と比べて、無効になってしまうリスクも圧倒的に高くなっています。もし自筆で作成する場合は「全文自書、日付、氏名、押印」の要件はもちろんですが、連名は不可、訂正の場合は方式が決まっているなど見落としがちな点もありますので、必ず専門家に相談して作成することをおすすめします。 残していく家族や親しい人のためと思って書いた遺言書が無効になってしまったら、気持ちは伝わってもそれが実現されないことになり、残された人はもっとつらい思いをすることなります。 今回は、自筆の遺言が見つかったときの検認当日の流れや、遺言書に書かれてある内容についてご紹介しました。 次回は、もし遺言書が手続き先で無効と判断されてしまった場合、相続手続きはどのように進めたらよいのかについて詳しく説明します。