「テスラ」と「プリウスPHV」どっちがスゴイか?
プリウスPHVの“あえて短い”航続距離
ではプリウスPHVはどうか? プリウスPHVは実はプリウスのちょっといいヤツではなく、本質的には電気自動車だ。だがしかし、家庭で充電した電力で走れる距離はトヨタの発表値でわずか26.4キロ。バッテリー容量は4.4kWhしかない。テスラの航続距離500キロ、バッテリー容量85kWhとは比べるべくもない。冷暖房でも使おうものなら電気での航続距離は半分の10キロ少々だ。 「電欠は致命的と言うならプリウスPHVはダメじゃないか」。そういう声が聞こえそうだが、トヨタはこのバッテリー容量を意図して決めている。その狙いは毎日バッテリーを使い切ることだ。バッテリーを使い切った場合、プリウスPHVは普通のプリウスと同じハイブリッドカーになるので、とりあえず立ち往生の心配はない。しかし、だからと言って何故バッテリーを使い切る必要があるのか? テスラもプリウスPHVも蓄電にはリチウムイオンバッテリーを使っている。リチウムイオンバッテリーのいいところはエネルギー密度の高さ。つまり大きさ重さの割に電気がいっぱい貯められるのだ。またニッケル水素に比べて継ぎ足し充電でバッテリーが劣化するメモリー効果が小さい。しかしそれでも、充電池である以上、満充電で長時間放置することは劣化の原因になるという点は変わらないし、使わなくても自然放電して電気は減ってしまう。 だから、貯めた電気はその日の内に使い切った方がいい。そのためにプリウスPHVのバッテリー容量は統計に基づいて、多くのドライバーが1日で使いきれる容量に設定されている。しかもタイマー充電機能を備えて、朝の出かけ前にちょうど充電が完了できる仕組みまで備える徹底ぶりだ。ついでに記しておくと、プリウスPHVは原則的に外出先での充電はしないスタンスだ。実際高速道路の充電スタンドとはプラグの形状が違って充電できない。使い切ったらハイブリッド。それがトヨタの電欠に対する答えだ。だから家を出たら充電のことは忘れて、充電スタンドも探さない。インフラなんていらない。その自由さを謳歌するためのハイブリッドなのだ。 バッテリー容量を抑えることは同時に、車両の軽量化にも結びつくし、バッテリーの劣化防止にも役立つ。ついでにコストも下がるから車両価格もテスラの1/3だ。日常使うエコカーとしてトータルで実用的な効率を考えた容量に設定されているのだ。 テスラは趣味のクルマなので、多少乱暴なバッテリーの使い方をしてバッテリー交換に数百万円かかったとしても、それが払える人に向けた商品だ。だが、プリウスPHVは違う。毎日生活の足として使うクルマだ。 例えば毎日の通勤が往復30キロの人がいたとしても、少なくとも1/3は電気で走行することができる。計算上電気走行の1キロ当たりコストは1.3円。ハイブリッド走行での1キロ当たりコストは4.6円になる。初乗り運賃が安くなっているようなものだ。しかもハイブリッドに移行後もプリウス同等の燃費が約束されており、給油できる限りどこまででも走ることができる。クルマの本質である移動の自由は決して失われないのだ。