「テスラ」と「プリウスPHV」どっちがスゴイか?
テスラの電欠への単純なソリューション
つまりEVにとってインフラが有り余るほど充実しない限り、外出中の電欠は非常にまずい。では電欠とどう向き合うかがEVのキーになってくるはずだ。誰でも最初に考えるのはバッテリーを沢山積むことだ。テスラは大容量バッテリーを搭載している。バッテリーとモーターの組み合わせによって航続距離が異なるが、400キロ台中盤から500キロ程度の航続距離がある。テスラのHPではおそらく意図的に車両重量を記載していないが、いくつかの報道を見る限り、約2300キロとオールアルミボディをうたうにも関わらず相当に重い。普通に考えてその原因はバッテリーだろう。 だが、バッテリーを沢山積めば電欠しないかと言えばそんなことはない。どんなに容量の大きいバッテリーでもやがて空になる。1日だけの外出を考えればバッテリー容量を上げるのは解決策になるかもしれないが、毎日使おうと思えばそうは行かない。 容量の大きなバッテリーは充電に時間がかかる諸刃の剣だ。テスラのHPによれば85kWhもあるテスラのバッテリーが空っぽになったら自宅で満充電するには13時間17分を要する。しかもそれはあくまでも計算値だ。カタログ通りの燃費を実走行で出すクルマはほぼないように、計算値で充電できることもないだろう。 テスラが用意する充電器は100Vコンセント用の40Aと、200V動力電源用(低圧電源契約)の80Aの2種類だ。多くの家庭で契約している100Vコンセントの電源は東京電力で言えば従量制電灯契約に相当する。これだと契約できる最大容量は60Aなので、充電に40Aを使えば、家庭用に残された余力は20Aしかない。 100V20Aとはつまり2000Wということ。電子レンジ、炊飯器、コーヒーメーカー、ドライヤー、掃除機あたりは1台あたり1000W超えが普通だ。充電中にこれらを自由に使えるかどうかは言うまでもないだろう。ちなみに充電器に何アンペア使うかの設定はできるので、家庭優先なら充電電流を絞ればいいが、当然ながら充電時間は伸びる。 「いや、バッテリーを空にすることなどない。1日の走行距離なんて多くても100キロくらいだ」という意見は当然出てくるだろう。テスラでも基本的にはそう考えている。確かに走行距離が100キロなら充電時間は2時間39分だ。だったら問題ない ── だろうか? 1日100キロしか走らないなら、搭載されているバッテリーのほとんどが余剰である。EVをグリーンカーだと位置付けるなら、いざ長距離という時のためだけにしこたまバッテリーを積んで、日々加速の度にバッテリーという重量物を運びエネルギーを無駄遣いするのは本末転倒も甚だしい。その上、バッテリーはちゃんと使い切ってあげないと劣化が進むという問題もある。余剰は本来望ましくない。 つまりテスラはエコカーでもないし、実用車でもない。難しいことを考えず、シンプルにドカ盛りのバッテリーとハイパワーモーターを楽しむマッスルカーの仲間だ。ドライバーが近づくとせり出すドアハンドルのようなギミックには驚きがあるかもしれないが、クルマとしてのエンジニアリングはシンプルそのものだ。 「最新のギミックを備えたマッスルEV」そう割り切って買える人ならいいが、間違っても工業製品としての合理性で捉えることはできない。だから本来は、電力会社と低圧電力契約を結び、家庭用と別の電線を引っ張り、毎月そのために別枠の基本料金と使用電気代を財布を気にせずに払って楽しむ趣味のクルマなのだ。そういう位置づけならばテスラには何も批判する点はない。