【ラグリパWest】小さな元SH、大きな仕事。秦一平 [レッドハリケーンズ大阪/リクルーター]
自分より小さい人に会ったことある? 「めだか師匠です。これくらいでした」 手を目のあたりにもってくる。あっ、いや、ラグビーの話なんやけど…。 秦一平(はた・いっぺい)は公称153センチ。めだか師匠こと池乃めだかはさらに4センチ低い。お笑いの大ベテランとは9年前、ラグビー新喜劇で絡ませてもらった。 この身長は遺伝のようだ。 「父は頭大きめの160センチ。母は150センチです」 お父さんにつけるその形容詞、いる? 愛称は「ペペ」。由来は謎らしい。 「小1からそう呼ばれていました。いっぺいの語尾からの変換が有力です」 そんな大層な質問やないんやけど…。 ペペと話していると顔が緩む。計算しないユーモアに包まれる。小柄ながら顔のパーツは大きい。笑うと福笑いを連想する。目じりは急降下。幸運を呼ぶ感じだ。 ペペはNTTドコモのSHだった。現役時代はトップ選手としてもっとも身長が低かった、はずだ。所属したチーム名は今、レッドハリケーンズ大阪に変わる。 入社=入部は2012年。公式戦初出場は9月1日、リーグワンの前身であるトップリーグの第1節だった。キヤノン戦(現・横浜E)で途中出場。14-38と初陣は飾れなかった。 得意なプレーはタックルだった。 「すでに低いですから」 まあ、そうやね。当然ながら下のボールのさばきも早い。この2つが選手としてのペペの生命線だった。 現役引退は2021年5月。ペペは32になる年だった。直前の最後のトップリーグでNTTドコモは史上最高の5位に入った。 「チームからクビって言われました」 同じポジションにTJペレナラが入ったとか、体力気力の限界とか、そんな感じじゃあないのか…。 ペペは選手として9シーズンを過ごした。コロナによる不成立や二部時代を除き、トップリーグでの戦いは6シーズン。その85の公式戦中、32試合に出場した。 引退後は社業に専念する。京都支店でドコモショップへの営業を担当していた。 「楽しかった。みんなが助けてくれました」 職場のアイドルは昨年7月、異動を告げられる。ペペはびっくり。 「まったく考えていませんでした」 この時までにNTTチームの再編があった。社員選手を希望する者はレッドハリケーンズ大阪。プロを望むものは浦安D-Rocks、旧のコミュニケーションズに移った。 チームトップのGMには新潟支店からOBの高野一成が赴任する。高野は現役時代、ペペと同じSH。チームの再出発に、「リクルーター」として呼び戻した。 ペペの仕事は大学生の視察と勧誘。本拠地の大阪・南港を起点に全国に飛ぶ。 「今は大学ラグビーを見まくっています」 よい選手を見つければ、上に報告する。同時に獲得のために行動を起こす。ペペにはアドバンテージがある。 「特徴的な選手だったので、覚えてくれている人が多いです。岩出先生にあいさつに行った時、明治の出身はもちろん、チクシだよね、って高校も覚えてもらっていました」 岩出先生とは、岩出雅之。帝京の顧問である。大学選手権9連覇を含む12回の優勝をさせた指導者の覚えはめでたい。仕事のとっかかりはつかみやすい。 ペペは岩出の記憶通り筑紫から明治に進んだ。福岡の県立高校を選んだ理由はある。 「ラグビーがそこそこ強い進学校でした」 ペペの「そこそこ」は謙遜である。高校の3年間はすべて県決勝に進出している。 3年連続で敗れたのは東福岡。高3時の87回大会予選(2007年度)は7-19。この時、東福岡は本大会で初優勝する。決勝は伏見工(現・京都工学院)を12-7で振り切る。 ペペの代、筑紫は全国上位の力があった。この代からの明治入学は史上最多の3人。ペペとLO日高駿とFL笠原卓。その強さの証明になる。笠原は「笠原ゴーフォワード」として卒業後は芸人になった。 筑紫の監督はOBでもある西村寛久だった。「チクシやぞ!」の気合いは有名である。 「礼儀作法に厳しい先生で、遠くから目があってもあいさつするように言われました」 その甲斐がある。明治の上下関係は厳しいと聞いていた。 「想像していたより大丈夫でした」 筑紫から明治に至るラグビーの始まりは草ヶ江ヤングラガーズだった。小4だった。 「友だちがひとりで行くのが嫌、って言ったのでついていきました」 中学は長丘。ここでは中学ラグビーとスクールとかけ持ちをした。 明治では2年から公式戦に出た。1つ上でHB団を組んだのはSO田村優だった。 「ユウさんには個人練習で鍛えてもらいました。自分では80点くらいのパスを投げても、遅い、って言われました」 田村は現在、横浜Eでプレーし、日本代表キャップは70を誇る。 田村に磨かれ、ペペはNTTドコモに誘われる。その田村を司令塔に戴いた2、3年の大学選手権はともに4強敗退。最終学年の48回大会は8強戦で筑波に9-11で敗れた。 紫紺のジャージーは深紅に変わり、ラグビーを終える。そして今、ペペはまたその深紅のために働く。レッドハリケーンズ大阪はリーグワンのディビジョン2(二部)で4位。7戦して2勝5敗。勝ち点は8。上位3チームに許される入替戦進出は厳しい。 現状を打破するにはペペの踏ん張りが軸になる。来季以降、よい選手をどれだけチームに誘えるか、それが強化の軸になる。 「チーム再編で残ってくれた選手たちはベテランになってきています。彼らがいるうちに若い選手たちに文化を引き継がせたい」 岩出のように「覚えているよ」の優位点を使って、人を和ませる資質をも混ぜ込みながら、その責務を果たしてゆきたい。 (文:鎮 勝也)