航空機が今「サメ肌」に大注目しているワケ かつて競泳水着で時代を席巻、燃料効率改善の秘策とは?
サメ肌フィルムによるラッピング
9月上旬、ANAはサメ肌の構造を模したリブレット加工フィルムを実装した旅客機、貨物機を就航すると発表した。 【画像】「リブレット加工フィルム」を見る リブレット加工フィルムを機体に貼り付けることで、運行時に発生する空気抵抗を低減し、1機あたり年間 ・燃料消費量:約250t ・CO2排出量:約800t が削減できる。東京~ロンドン間で必要な燃料は約90t、その際排出されるCO2は約280tであり、数字だけ見るとあまりそう多くはない。しかしながら、燃料やCO2の削減にしのぎを削ってきた航空業界からすると、このわずかな数字でも画期的な出来事だ。 ANAが今回採用したリブレット加工フィルムは、ドイツのルフトハンザテクニック社とBASF社が共同開発し、製品名は 「AeroSHARK(エアロシャーク)」 という。ルフトハンザテクニック社は、ルフトハンザグループの航空機のメンテナンスを行うグループ会社である。BASF社は、ドイツを本拠地とする世界最大の総合化学メーカーだ。 エアロシャークは、サメの皮膚を模倣し、高さ50μmの微細な突起のリブレット加工を施したフィルムである。今のところ ・スイス国際航空のB777-300ER:12機 ・ルフトハンザカーゴB777F:4機 ・ルフトハンザドイツ航空のB747-400:1機 ・オーストリア航空のB777-200ER:4機 で実績を積み上げている。
劇的に早くなったサメ肌の競泳水着
サメ肌と聞くと、ある程度年をとっている人であれば、競泳水着を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。 1998年のソウル五輪あたりから、より速く泳ぐために流水抵抗を測定した水着開発競争が熱を帯びてきたという。この頃は表面の凹凸をなくすことに力がそそがれ、ある程度は速度向上に寄与したが、水着表面で小さな渦が発生して摩擦抵抗を下げるのに限界があった。 そして、2000年のシドニー五輪で活躍したのが、サメ肌の構造を取り入れた全身を覆うタイプの水着だ。サメ肌の構造が小さな渦を打ち消して抵抗を下げることに成功し、12の世界新記録に絡むこととなる。余談であるが、それからというもの競泳水着の開発競争がさらに激しくなった。 2008年には強く締め付けることで体幹を保持して抵抗を低減するレーザー・レーサーが登場。金メダリストの9割以上が着用したといわれている。さらには、水着に浮力を持たせたラバー水着が登場し、2009年の世界水泳で43の世界記録を樹立したのは記憶に新しい。 競泳水着の世界で一時期であるがもてはやされたサメ肌は、水のなかであれ空気のなかであれ流体のなかで活動するにあたり、摩擦抵抗を低減するために優れた構造を有していることにはかわりない。ルフトハンザテクニック社とBASF社が、サメ(シャーク)をネーミングに織り込んだのも納得だろう。