航空機が今「サメ肌」に大注目しているワケ かつて競泳水着で時代を席巻、燃料効率改善の秘策とは?
日本航空は塗装で実現を目指す
サメ肌の構造は、1950年代には既に知られており、1980年代に研究がすすみ、1990年代にはテスト飛行されていた。 エアバス社も、自社のA320に3M社のリブレット加工フィルムを用いてテストを行い、満足のいく結果を得られていたという。しかし、当時の技術では施工性や耐久性に問題があり、実装には至らなかった経緯がある。 ANAがリブレット加工フィルムを実装したのは、フィルム加工技術が進化し理論に追いついた結果といっていい。その一方で日本航空は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、オーウエル、ニコンとともに、機体にサメ肌の塗装を施す方法で実証実験中だ。 塗装するといっても、機体に既存の塗料で塗装後、水性塗料で作った溝の型を圧着して転写し、水で水性塗料を洗い流してサメ肌を再現する方法である。ニコンの開発したリブレット加工機は、金属や樹脂など幅広い材料に対応できるうえ、複雑な形状にも最適なリブレットを加工できる点が優れている。 日本航空は、2022年7月からB737-800型機に60平方センチメートルのリブレット加工を施し飛行実証実験を重ねていた。2023年2月時点で施工後約1500時間、6月時点で約2300時間の飛行を終えて耐久性を確認したことから、2023年秋から胴体下部に合計25平方メートルのリブレット加工を施して実証実験を継続している。今後は、引き続き耐久性や美観性のほか、燃費改善効果を確認する。
抗菌効果も期待されているサメ肌
サメ肌の応用範囲は意外と広く、和食の分野ではワサビをサメ皮でおろすと、刺激と香りが広がると重宝されてきた。江戸時代に宮大工が木の表面を加工する時にサメ皮を使用しており、それをヒントにワサビをおろしたともいわれている。目には見えない微細なリブレット構造は、古くは今でいうサンドペーパーとして役立っていた。 流体抵抗を低減するという点では、高級スポーツカーやF1マシンのほか、医療用カテーテルまで適用されている。また、サメ肌には抗菌効果があることが確認されており、マウスパッドなどリブレット加工を施した製品が販売されている。米国には壁にリブレット加工を施して細菌の付着を抑制している病院もある。 船舶の分野では、船底の表面をリブレット加工することによる燃費改善効果だけでなく、藻やフジツボといった海洋生物の付着防止効果が期待されている。特に海洋生物の付着は、船舶の燃費を下げるだけでなく、塗料による海洋汚染の問題もあることから、今後の発展に期待するところが大きい。 サメ肌(皮)は、古くから道具として使われ、その構造を模したリブレット加工が今ではさまざまな分野で応用され、今後もますます広がっていくだろう。特に目には決して見えない部分で、自然界から学ぶことはまだまだたくさんあるように思える。
灘真(テックライター)