実は衰退の危機、「喜多方ラーメン」の復活を目論む男の正体 3000円ラーメンに苦情殺到も「織り込み済み」、今日も伝統を繋げるために奔走中
こうして開発したのが「山葵塩そば」だ。喜多方ラーメンらしい豚ベースのスープと極太の多加水麺に、シジミの旨味溢れる塩ダレを合わせた逸品。これがとても上品で美味しい。 食べ進めていくうちに白髪ネギの上に載る山葵が少しずつスープに溶け出して美味しい。バラ肉のチャーシューは喜多方ラーメンならではだ。 「ご当地ラーメンとは、100年続く『ホッとするラーメン』であるべきだと思っています。決して東京のラーメンのように濃厚にする必要はありません。大事なのは軸を持つこと。“喜多方ラーメン”という軸の中で味を磨いていくことが大事です」(江花さん)
喜多方ラーメンの歴史を無視して作ってしまった、かつての失敗は、ここでしっかりと活きたわけだ。 ■店を続けることは「自分のラーメン」を見つける旅 今年から「あじ庵食堂」で提供している、極上の喜多方ラーメン「SUGOI」もまさに“喜多方ラーメン”という軸の中で磨き上げた逸品だ。 喜多方ラーメンの豚のスープをベースに、小麦「夏黄金」「ゆきちから」で作った特製麺、会津牛チャーシュー、会津牛ワンタン、ナルト、ノリを合わせる。別添で会津牛そぼろ、地元産の春菊のおひたし、白髪ネギが付く。これが会津漆器と喜多方ラーメン箸で提供される。
まさに極上の名に恥じぬ一杯だが、こんなに豪勢にしても喜多方ラーメンらしさを感じるところが何より凄い。喜多方ラーメンの底力を感じる一杯だ。 喜多方市のリブランディング事業として始まった企画だが、こういうラーメンは枠からはみ出ていないことが大事だ。 3000円で提供しているラーメンで、もちろん賛否あることはもともと想定済みだったわけだが、作っている職人が喜多方ラーメンの枠の中でこだわっていると言い切れることが大事なのだ。
「ラーメン店を続けるということは、自分のラーメンとは何なのかを見つける旅にほかなりません。繁盛店はみんなその積み重ねで今日まできています。そのそれぞれの店の歴史が伝統を作り、今に続いているのです」(江花さん) ■若い職人たちととも、喜多方の再生が始まった 後継者不足などの影響で、近年、横綱クラスの老舗の閉店ラッシュが続いている喜多方。ピーク時には127軒あったラーメン店が今や80軒弱にまで減っており、何もせずにいれば、さらに厳しい状況になることは間違いない。
しかし、一方では事業を継承し2代目となった若い職人たちもいる。こういった若い世代とともに、一致団結して喜多方のラーメン文化をさらに発展させるべく、江花さんはこれからも奔走し続けていく。
井手隊長 :ラーメンライター/ミュージシャン