<上海だより>消えゆく昔ながらの市場 変化した消費者意識と地価高騰
上海では今もなお古い建築が取り壊され、再開発が進んでいる話はこれまでにも書いてきましたが、中心部の市場に関しても同様の動きが進んでいます。都市の近代化において、日本も戦後の経済成長の中で通ってきましたし、避けられない過程である事には違いありませんが、古き良き生活とその風景が失われていく瞬間に居合わせてしまうと、生活の中でただ見過ごしていく、ということもできません。
現代的な国際都市である上海とはいえ、地元の市場はまだまだ昔ながらの雰囲気を多く残しています。肉こそ外に放置したままで衛生面が不安な点はありますが、売れるまで生きていた鶏や水槽の中の魚を売ってくれるなど、鮮度の高さを感じられるものも多いです。鶏にいたっては、生きたまま持ち帰ることも可能です。 多くの市場が取り壊されていく中で、人々の生活の中心はスーパーでの購入に移り変わっています。中心部から外れれば、大型のウォルマート、カルフールや台湾系スーパーなどが盛況です。中心部となると外国人や富裕層向けの高級スーパーか、国営系のやや殺風景なスーパーが多い印象でしたが、近年では地元の生活水準に合わせながらも清潔感や商品管理に配慮が行き届いた新興系スーパーも出てきました。
安全や清潔、高品質への欲求は、現代社会を生きる人々にとって当たり前であり、現在の上海の人々にとっても同様です。日本旅行における爆買いの基本的な訴求点も、日本製の商品がその欲求を満たしてくれるからこそ生まれています。当然、日常的な生活においてもその欲求が失われることはありません。綺麗なスーパーで、清潔に包装された野菜や肉を購入することの何が悪いのか、当然悪くありません。どこの国であろうと、時代はそのように移り変わっていきます。
しかし、フランスのマルシェのように、市場の形態を保ちながらも質の良い商品を提供することも不可能ではありません。もちろん、フランス人の性質そのものが、グローバリゼーションや資本主義的な大型スーパーを進んで好まないことや、あるいは単に日常の会話を楽しみ続けたいだけ、ということにも由来するかもしれません。ただ、中国人の会話好きな性質を見ていると、フランス的な市場の形成も可能ではないか、という方向性も上海という都市の文化的には作り得るような気がします。しかし、今の上海中心部の地価の高騰を考えると、安い野菜を売る市場を残すよりも、新しくマンションを建設した方が確実に経済効果を生むでしょう。
今、中国の経済成長に対して国際社会から不安を抱かれていますが、このような方法で開発を進めることでしか経済成長を維持できないのでしょうか。上海ほどの複雑で魅力的な歴史を持っていて、21世紀の今なお変化と成長を続けている都市として、取り壊しと開発の一辺倒を続けるのは、あまりに惜しい気もします。今後台頭してくるであろう他都市のモデルにもなるような、未来を見据えた都市開発を上海で行うことができれば、中国は本当に魅力的な国になると思いますが、現状の経済状況や開発計画からすると非常に難しい選択でしょう。