ガンバ大阪のルヴァン杯4強裏に“3冠ホットライン”
基本となるトラップやパスに、サッカー王国で育ってきた面影は感じられなかった。しかし、パトリックにはどんな状況でも労を惜しまずに走る献身性と、相手を畏怖させる巨体にいま現在も身体に脈打つ、宇佐美をして「相手の背後へ動いていく強烈な武器」と言わしめる推進力があった。 そして、ブラジルワールドカップによる中断明けから、パトリックと宇佐美が織りなす「剛」と「柔」のコンビネーションがJ1戦線を席巻する。前者が強靱なフィジカルと縦への推進力で相手の守備網を強引に押し下げ、生じたスペースに侵入した後者が攻撃のオールラウンダーぶりを発揮する。 再開後の20試合で合計18ゴールをマークした2人にけん引されるかたちで、J2への降格圏にあえいでいたガンバもV字回復。ルヴァンカップの前身ヤマザキナビスコカップを制し、リーグ戦でも奇跡の逆転優勝を達成。勢いに乗って天皇杯も制した。 2000シーズンの鹿島アントラーズ以来、史上2チーム目となる国内三冠制覇。偉業達成の原動力になった最強コンビは、2015シーズンにはリーグ戦で合計31ゴールをマーク。しかし、宇佐美が2度目の海外移籍を果たした2016年6月末をもって別々の道を歩み始める。 そして今夏に2人のサッカー人生が再び交わる。先にガンバへ復帰したのは宇佐美だった。アウグスブルクとの契約が2年残っている状況で、中学生時代から心技体を磨いてきたガンバから完全移籍のオファーが届いた。バイエルン・ミュンヘンとホッフェンハイムへ期限付き移籍しながら、ブンデスリーガの厚い壁にはね返されて復帰した2013年の夏とは状況がまったく違った。
すでに27歳。中堅の域に差しかかったからこそ、不退転の覚悟を込めて復帰を決めた。移籍が発表された6月25日。本拠地パナソニックスタジアム吹田で記者会見に臨んだ宇佐美は、ルーキーイヤーに背負った「33番」のユニフォームを手にしながら、自虐的な言葉に闘志を凝縮させている。 「2度目の挑戦もダメだった、という気持ちが清々しいくらい自分のなかにある」 1か月後の7月25日には、パトリックがサンフレッチェ広島から期限付き移籍で復帰する。昨シーズンは得点ランキング2位の20ゴールをあげながら、今シーズンはコンディション不良もあって出場機会が激減していたパトリックのもとへは、浦和レッズからもオファーが届いていた。 「僕のハートの一部はガンバの色に染まっているし、いまでも強い思い入れがある」 迷わずにガンバを選んだパトリックは、こんな言葉を残している。2016年秋に右ひざに全治8か月の大けがを負ったパトリックに対して、ガンバは満了目前だった期限付き移籍の期間を半年間延長する配慮を見せている。完治した後に加入したサンフレッチェで完全復活を果たしても、ガンバへの恩を忘れていなかった。 「僕がペナルティーエリア内に入ったら、クロスを入れて欲しいとみんなには言っていたけど、前半はなかなかボールが入ってこなかった。ただ、宇佐美が入ってからは、彼がいいボールを入れてくれることはわかっていたので、しっかりといいポジションを取ることができた。 でも、いま現在がマックスじゃない。彼もヨーロッパでいろいろなことを経験して、引き出しやアイデアが増えたはずだし、僕も広島で多くのゴールを決めただけでなく、けがなどもあっていろいろなことも勉強して、サッカー選手としても人としても成長できたと思っているので」 コンビ再結成から公式戦で6試合目、時間にして273分目で開通させた待望のホットライン。殊勲のパトリックが手応えをつかめば、なかなかコンディションが上がらない宇佐美も絶妙のアシストを逆襲への起爆剤にしたいと力を込めた。 「パトだけじゃなく、他の選手ともプレーの面で合わせていかないといけない。ただ、パトがボールを受けたいタイミングを思い出す作業をしているなかで、アシストができたのはよかった」 6戦連続未勝利(5分け1敗)の真っ只中にいるリーグ戦で、ガンバは14位に甘んじている。残留争いに巻き込まれかねない状況から抜け出す勢いをつけるためにも、2015シーズンの天皇杯以来となるタイトル獲得への可能性が膨らんだルヴァンカップを、眩い輝きを取り戻した「3冠ホットライン」を中心に全力で獲りにいく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)